追加エピソード その後の真紀

1/1
前へ
/39ページ
次へ

追加エピソード その後の真紀

悩んでた時間は短かったけど、あの異常な精神で出した答えのわりに、後悔は少しもしていない。 それどころか爽快感すら覚えている。 二十代という女の貴重な時間を元夫と過ごした。  それも後悔はしていないけど、元夫のこれからを思うと複雑な気持ちになる。 きっと彼は本当の本気の愛を知らない。 裏切れる愛を愛と呼び、香織との時間を欲と言い切った。 共に歩む決断をしても尚、寄り添う気持ちが持てなければ、自分の気持ちだけを見つめていたならば、元夫に幸せはやって来ない。 香織も今はいいと思っているけれど、愛を手に入れる為に自分がどんなに卑怯な真似をしたか、実感しなければ幸せなど夢のまた夢だろう。 二人は愛に飢えている。 似たモノ同士だ。 そして、もう片方の似た人も…… 「やぁ、真紀さん。こんにちは」 「え、ええ……こんにち、は」  「仕事はどうかな。慣れたかな。あと新生活の方も不満や不安はないかい?」 「はい。今のところ順調です。おかげさまで……」 離婚してから中谷さんが何やかんやと付き纏ってく、違った、女性一人になる私を心配して、仕事や住む場所、諸所諸々をお世話になったのだけど。  週に数度、酷い時には日に二、三度、私の仕事場に顔を出しては要らぬ手土産を渡してくる。 今日は某有名シェフの手作りハンバーグ。 花束を添えて。 ……どうにかならないものか。 そもそもそのお世話だって辞退した。 そこまでしてもらう必要はないと言ったのに、押し付けがましい加害者ぶりを発揮して、強引に物事を進めてしまったのだ。 知らない番号が携帯にあり、出てみると「○○会社です。明日から宜しくお願いします」とか、「○○引っ越しです。この度は中谷様から契約を承りました」とか、言われた時には声を失った。 そして今。 この状況が続いているわけなのだが。 「困りごとはないかな」 貴方です!! とは面と向かって流石に言えない。 「そう……じゃあ、今日の夜、その夕食をウチで一緒にどうかな? 合うワインも用意したんだ」 何故?! そしてやはり貰った手前、嫌だと言いづらい。 片手にぶら下げた細長い手提げを掲げて見せてくる辺り、了しか受け付けない気概を感じた。 「真紀さんに相談したいことがあるんだ。貴女にしか言えない悩みだ。聞いて答えてくれるよね」 素晴らしい笑顔だ。 是非、初対面時に見たかったけど、胡散臭さが漂っているのは気のせいかな。 「………分かり、ました」 「良かった。では今夜、迎えに来るので待ってて欲しい。じゃあ、仕事頑張って」 貴方こそ!! それも、口の中に押し込めた。 ( 完 )
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

466人が本棚に入れています
本棚に追加