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追加エピソード その後の真紀
悩んでた時間は短かったけど、あの異常な精神で出した答えのわりに、後悔は少しもしていない。
それどころか爽快感すら覚えている。
二十代という女の貴重な時間を元夫と過ごした。
それも後悔はしていないけど、元夫のこれからを思うと複雑な気持ちになる。
きっと彼は本当の本気の愛を知らない。
裏切れる愛を愛と呼び、香織との時間を欲と言い切った。
共に歩む決断をしても尚、寄り添う気持ちが持てなければ、自分の気持ちだけを見つめていたならば、元夫に幸せはやって来ない。
香織も今はいいと思っているけれど、愛を手に入れる為に自分がどんなに卑怯な真似をしたか、実感しなければ幸せなど夢のまた夢だろう。
二人は愛に飢えている。
似たモノ同士だ。
そして、もう片方の似た人も……
「やぁ、真紀さん。こんにちは」
「え、ええ……こんにち、は」
「仕事はどうかな。慣れたかな。あと新生活の方も不満や不安はないかい?」
「はい。今のところ順調です。おかげさまで……」
離婚してから中谷さんが何やかんやと付き纏ってく、違った、女性一人になる私を心配して、仕事や住む場所、諸所諸々をお世話になったのだけど。
週に数度、酷い時には日に二、三度、私の仕事場に顔を出しては要らぬ手土産を渡してくる。
今日は某有名シェフの手作りハンバーグ。
花束を添えて。
……どうにかならないものか。
そもそもそのお世話だって辞退した。
そこまでしてもらう必要はないと言ったのに、押し付けがましい加害者ぶりを発揮して、強引に物事を進めてしまったのだ。
知らない番号が携帯にあり、出てみると「○○会社です。明日から宜しくお願いします」とか、「○○引っ越しです。この度は中谷様から契約を承りました」とか、言われた時には声を失った。
そして今。
この状況が続いているわけなのだが。
「困りごとはないかな」
貴方です!! とは面と向かって流石に言えない。
「そう……じゃあ、今日の夜、その夕食をウチで一緒にどうかな? 合うワインも用意したんだ」
何故?!
そしてやはり貰った手前、嫌だと言いづらい。
片手にぶら下げた細長い手提げを掲げて見せてくる辺り、了しか受け付けない気概を感じた。
「真紀さんに相談したいことがあるんだ。貴女にしか言えない悩みだ。聞いて答えてくれるよね」
素晴らしい笑顔だ。
是非、初対面時に見たかったけど、胡散臭さが漂っているのは気のせいかな。
「………分かり、ました」
「良かった。では今夜、迎えに来るので待ってて欲しい。じゃあ、仕事頑張って」
貴方こそ!!
それも、口の中に押し込めた。
( 完 )
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