元夫&香織 破滅へのカウントダウン ( 元夫編 )

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元夫&香織 破滅へのカウントダウン ( 元夫編 )

子供が産まれた。 初めての我が子は小さな小さな女の子。 おめでとうと言われる度に、口にはしないが何がめでたいんだと思っていた。 同じ行為の上で成り立つのに、気持ちがなければ酷いことを平気で考える。 自分がこんな人間だっただなんて、真紀を失うまで気付かなかった。   堕ろせよ。 産むなよ。 子供さえ出来ていなければ。  産まれるまでに何度も考えた。 香織と結婚しても、ずっとずっとその最低な考えは離れてくれず、産まれた後ですら、なんで、どうして、望んでない、こんなの違うと否定ばかりが頭を占める。 世話をするのはただの義務。 世話をしないと生きて行けないか弱き我が子は、親の不貞で産み出されたことなど知らないのに、育まれた日から父に疎まれる運命を背負っていた。 赤ん坊は可愛いと誰かが言う。 我が子の成長は大変だが嬉しさが勝つだろうと誰かに言われた。 ……思わない。いや、思えないんだ。 いくら成長しようとも、いくら接しようとも、望まなかったことに変わりなく、愛そうと努力しても、心のどこかでこの子は違う、真紀との子供じゃないと、どうしてもその気持ちが捨て切れない。 子供が悪いんじゃない。 何も悪くない。 俺が、俺が真紀を過去に出来なくて、失ったのにあるはずもない未来を妄想し、勝手に我が子と得るはずだった愛する人との子供を見比べている。 ごめん。ごめんな。 こんな父で本当にすまない。 何度泣いただろう。 何度、罪悪感に苛まれ、眠れぬ夜を過ごしただろう。 うなされて夜中に起きることもしょっちゅうだ。 隣りで眠る香織が擦り寄って来ようとも、あからさまな誘いをかけられようとも、子供が産まれたその日から俺のアレは勃たなくなっていた。 欲を求めたくせに、欲で得た結果で愛を無くし、ついでに欲まで消えたのだ。笑えない。全然笑えない結末だが、次を催促されても役に立たなければ出来るはずもない。 これで良かったのだ。 父に愛されない非道な運命を背負う子が他に出来なくて、俺はむしろ安堵していたのだが。 香織は違ったらしい。 ほどなく外に男を作り遊び出す。 仕事から帰って来ても、まだまだ手のかかる子供が一人きりで部屋にいることも珍しくなかった。 俺は香織も子供も愛してない。 けれど、こんなのは許せなかった。 自分の欲のため庇護を必要とする我が子を放置する身勝手さ、勃たない俺が悪いと俺だけを罵る身勝手さ、挙げ句の果てに愛してくれないなら結婚しないでよと、決めざるを得なかった理由に目を背け、全責任を俺だけに押し付ける身勝手な香織は、最後の最後までヒステリックに叫び自分の非は認めなかった。 終わりは呆気ない。 離婚は喜んでしたけれど、我が子を思うとやり切れない。 母に望まれたはずが捨てられて、望んでなかった父の元に残される。俺と香織の一時の快楽は、とんでもない罪をもたらしていた。 遠くない未来、俺たち二人は断罪されるだろう。 他でもない、我が子によって。
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