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元夫&香織 破滅へのカウントダウン ( 香織編 )
欲しいものを手に入れた。
望んだものを掴み取ったのに、想像していた幸せはまたしてもやって来なかった。
彼は私を愛さない。
大変な思いで子供を産んだのに、彼は私にお疲れ様としか言わなかった。
感情のない声音で、表情で、無感動を体現するかのように淡々と。
その姿に元夫が被る。
結婚前は優しい笑みを向けてくれてたのに、遊び相手から真の夫婦になった途端、彼に元夫が憑依したかのようだった。
なんで……。
どうしてなの……。
頑張ってくれてありがとう、嬉しいよ、そんな言葉を期待した。朗らかな笑顔を、心からの労りが浮かぶ表情を期待した。
落胆。
けれど、まだよ、と。
今は実感してないだけで、私や子供と過ごしていけば、父らしく夫らしくなってくれるはず。
胸に膨らむ不安や焦燥は見ないフリをした。
だけど、初めての子育ても相まって、次第に私は追い詰められていく。
夜中にぐずる。
抱き上げても宥めても泣くばかり。
家で子供と二人でいる日中は、心の休まる暇もない。
彼が仕事から帰って来る時間が待ち遠しかった。
私頑張っていたんだよ、ちょっと甘えさせて欲しいの。寄りかかる身体を抱きしめて、慰めて、安心を頂戴。少しでいいの。優しさと温もりが必要なのよ。愛まではまだ、求めないから。
彼はぐちゃぐちゃになった部屋をまず見回した。
次に空っぽの食卓を見て、台所を見て、それから縋った私の手をやんわりと振り解くと、子供の方へ歩いていく。
眠る我が子を撫でると、そのまま部屋着に着替えることもなく夕食の用意を始めた。
側から見れば良い夫だろう。
育児疲れの新米ママを手助けする理想の夫だ。
でもその目に私は映らない。
その目が探すのは、いつだって過去にそこに居た誰かだった。
ねぇ、いつまで待てばいいの。
いつまで我慢すれば、その残像は消えてくれるの。
子供もいる。貴方と私の子供が。
現実にここに居て、息をして、共に過ごしているのに。
感情のない凪いだ瞳で見られても嬉しくない。
元夫と別れたのに、元夫といるようで息が詰まる。
それを振り払いたくて熱を求めたのに。
何度試しても彼のアレは役に立たなかった。
妻としても女としても不要だと言われた気分だ。
私に残されたのは母としてだけなの?
でもその母の部分すら受け入れないじゃない。
私の見えない残像を探す彼、色のない目に火が灯る日は来るのだろうか。
愛のない夫、愛の証となるはずが、夫との繋がりを維持するだけの存在に成り下がった子供。
結果、私は待てなかった。
待つには辛すぎて。
彼も子供も全てをリセットさせる。
次こそは。
次こそ見つけてみせる。
私を一番にしてくれる人を、愛してくれる人を、幸せにしてくれる人を、絶対に。
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