真紀&中谷さん それは誰の話しなんでしょう?

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真紀&中谷さん それは誰の話しなんでしょう?

ハンバーグは美味しかった。 ワインも美味しかった。 離婚してから誰かと食事を共にするなど、外食以外ではなかった経験だ。 最初の緊張感はすっかり解れていた。 中谷さんもいつもと同じ態度だし、甘さや妙な気配は伺えない。後は相談やらに乗って帰るだけ。 なのだが、酔っていたのか、中谷さんの巧みな話術に翻弄されたのか、気付けばただの世間話で終了していた。 後日、会話が楽しくて相談するのを忘れていた、という中谷さんに、また時間がある時にでも聞きますよ、と軽く返事をしたのは大人の対応としてである。  そう、あくまでも大人の対応であって、週に一、ニ度、食事をする関係を容認したわけじゃない。 家じゃないだけマシだけど。 本日は某ホテルのディナー。 毎度ご馳走になるのは気が引ける。 「中谷さん、私から言うのもなんですが、今日は食事の前に相談を伺ってもいいですか? なぜかいつも聞かずに終わるので……」 「ああ、気付いたんだ」 ……まさかの確信犯でした。 悪気なく肯定されて開いた口が塞がらない。 「相談はある。答えも聞きたい。でもなかなか言えなくてね。つい、ずるずると先延ばししていた」 「あの、じゃあ言える時が来たら、」 「私は抱え込んで悩むタイプだと言ったと思う。真紀さんと会話や食事を続けていたら、打ち明ける勇気が持てるだろう」   ……えっと、それはつまり? 相談はしないけど食事は付き合えってこと? これからも? 何となく趣旨がぼやけているような……? 「もしかしたら、だが。仕事終わりの短い時間じゃなくて長い時間を過ごせる休日の方が話せるかもしれない。もちろん無理強いはしないよ。こちらの勝手なお願いだけど、嫌じゃなければ受けて欲しい」 ……悪化したような気がする。 そしてまた、断りづらい流れになっている。 「ええっと……あの、休日はその、」 「真紀さん。私の相談事とは恥ずかしながら恋愛についてなんだ。真紀さんも知っての通り愛のない結婚をした私は、そもそも愛というものに懐疑的で心を動かされることなどないと思っていた。あの日までは」 「あの日、ですか……」 「そう、あの日から私は寝ても覚めてもその人のことばかりを考えている。恋は堕ちるものと言うが、この歳になって初めてその経験をした。だから絶対に叶えたいんだが……それには真紀さん、貴女の力が必要なんだ」 もう相談をぶっちゃけてると思います。 頑張って下さいね、じゃダメなんだろうか。 「丁度明日は休日だ。予定があるならその次でもいいが、予定がないならこのまま泊まるって手もあるよ」 「なんで?!」 「いま会ってるのに、わざわざ家に帰ってまた明日会うなんて煩わしいだろう? 真紀さんの体調を考えての提案だったが、また配慮を忘れたようだ。心配しなくても部屋は別で取る」 そういう問題じゃなくて!! というか、いつの間にか明日会うことが確定してませんか?!
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