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真紀&中谷さん あの、私の話し聞いてますか?
「……君はなかなか、したたかな人なんだな」
「なん、なん、なんで……」
私は怖くなった。
中谷さんという人と、これ以上関わってはいけないような気がして。
昨夜はお手洗いに立ったフリをして家に逃げ帰った。連絡があったら困るので携帯の電源も切り、布団を被って震えながら寝た。
怖い夢も見た。
得体の知れない真っ黒なものに捕食される奇怪な夢で、抵抗虚しく最後は飲み込まれてしまった。
絶叫しながら飛び起きて、物凄い疲労感に襲われる精神と身体を叱咤して外に出る。
今日家にいたら、中谷さんがやって来るような危機感があり、居ても立っても居られずの行動だったけど。
ドアを開けてすぐの真正面に、昨夜と同じパリッとしたスーツ姿の彼がいて、唖然となる。
「こ、ここ。セキュリティーが万全で……」
「そうだな。私が真紀さんに勧めたマンションだ。部外者や不審人物が入れないようになっているが、その割に破格の家賃だったと思う」
「……え、ええ」
お世話になりたくなかったけれど、敷金礼金不要、保証人不要、地域の平均価格より安いのにしっかりしていて、断る理由がどこにもなかったもの。
でも今は、決めて失敗だと思っている。
不審人物とは言わないが、部外者の中谷さんが入り込めるセキュリティーって。
「安心して欲しい。セキュリティーには何の問題もないが、一つ重要なことは教えておこう。このマンションの所有者は私だ。ちなみに各部屋の鍵も持っている。入らなかっただけマシだろう?」
しれっと言われてゾッとした。
入ってたら犯罪です。
というか、何しに来たの?! 怖い!!
「今日は一緒に過ごす約束だ」
「約束?! し、してませんよ、そんなの!」
「酷いな真紀さん。相談を請け負っておいて途中で投げ出さないで欲しい。まだ答えを貰ってないよ」
「な、投げ出してなんかっ、じゃあ、あの、言います答え。恋が実ればいいですね。陰ながら応援してます。……はい言いましたよ」
だから帰ってくれないかな。
さっきから中谷さんがずっと私を見てて落ち着かない。なんかゾワゾワするんです。
答えを聞いて満足したのか、笑ってくれたので分かってくれたんだと思っていた。
「そう、応援してくれるんだ。じゃあ真紀さんには陰と言わず日向に出てくれないと困るなぁ」
「ひ、日向……ですか」
「ああ。日向で私とデートしてくれないと頑張りようがない」
「………」
あれ、嫌な予感がする……。
ききき、気のせいであって欲しい!
思い浮かんだものを全力で否定した。
……していたのに。
「はっきり言おう」
「いい! いいです言わなくて!!」
「真紀さん、私は貴女が」
「私は離婚したばっかりなんです!!」
「お揃いでお似合いだと思うが」
「そんなお揃いに似合うって何?!」
やっぱり怖い。中谷さんが怖い。
逃げたいのに逃してくれない気配がする。
用意周到にじりじりじわじわ、目に見えない何かに囲い込まれていく。
あの夢、まさかの正夢……かもしれない。
( 完 )
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