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女は肩書きが好き。
女は顔が良ければ寄ってくる。
自分の容姿も地位も理解している私は、軽い愛を囁き擦り寄る女か、絶対に逃がさないという執念を愛と呼ぶイカれた女しか知らなかった。
適当に選んだ女を抱けば、その女は私を束縛し他を排除しようとする。付き合っても付き合わずとも、女は皆同じだった。
肉欲はあれど、これじゃあ害でしかない。
愛を仄めかす女は相手にしないと決めたが、仄めかさなくてもいつの間にか害になっている。
愛とはなんだ。
私は分からなくなっていた。
こちらの都合も考えず、己の感情ばかりをぶつけるのが愛なのか?
好きになって、愛して、私を見て、抱いて、キスして、結婚して。……何度も聞いた言葉。
どうして、なんで、何がダメなの。
求めて止まない狂気の咆哮は、それこそ悪寒がするほど身に染みている。
女は面倒くさい。
女は理解不能。
それなのに私は今、前のめりにならないよう感情を抑えながら目の前の女と話している。
素早く計算を巡らせながら、相手の夫を牽制し別れを誘導しようと試みてみたり、庇うような慰めるような言葉を交えつつ。
彼女の中にあったのは芯の強さ。
裏切りに傷付いているのに冷静さを忘れない姿。
また、無表情の裏で、夫に向ける失望の眼差しは、確かに真の愛があったという証拠なのだろう。
漠然とした考えだったが、次の日にはそれが確定に変わった。
会社どころか外に出るのも憚れるような格好と表情で、彼女は…真紀さんは現れた。私の前に。名刺という小さな繋がりを頼りにして。
彼女の話を聞いても煩わしさがない。
醜い心を吐露する姿を見ても嬉しさしか湧いて来ない。
あれほど女の感情を遺棄すべきものだと思っていた私が、愛を語る女を嘘だと断じていた私が、彼女の全てを許容している。
もっと私を見て欲しかった。
もっと強く私というものを印象づけたかった。
遺棄すべき女の感情と同じものを抱えた私は、彼女の怒りさえ私のものにしたくなったのだ。
何という浅ましさ。
何という独占欲だろう。
ぶつけないと言われたのに酷い言葉で煽り、結果、殴られて逃げられたのに。
思い通り過ぎて笑ってしまったくらいだ。
残された古びたスリッパが愛おしい。
真紀さんと私を繋ぐ名刺以外のもの。
童話のシンデレラのように、私も王子となって彼女を探しに行こうか。
……いや、奪いに行こう。
初めて自分から欲しいと思ったのだ。
絶対に逃がさない。
逃す隙さえ与えない。
倫理に反する手法は取らないが、出来れば彼女自身に気付いて欲しかった。
君の夫は君を愛していない。
君の夫も、いつかの女達と一緒で自分の感情だけを大事にしている。
君と私は似た者同士。
愛を欺く人間に傷付き、病んでいた。
でもそれも、もうすぐ終わるだろう。
私が真紀さんを手に入れるんだから。
その為の布石も段取りも、既に頭の中にある。
残されたスリッパに、まだ見ぬ幸せな未来に思いを馳せた。
( 完 )
ヤンデレ化な中谷さんでした。
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