後日談 ニアミス元同士

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後日談 ニアミス元同士

あの騒動から早いもので三年の月日が流れた。 その間、元夫や香織が離婚したり、色んな事が起こったけれど、私はおひとり様を満喫し充実した生活を送ってい…… ……るのかいないのか、微妙なところである。 「今日の予定は買い物だったよね。荷物を持つのは大変だろう。是非、暇な私を使って欲しい」 「……中谷さん。せっかくの申し出ですが、」 「友人の真紀さんが友人である私に負担をかけたくないのは分かる。でも友人の真紀さんの力になりたいと思う友人の私の気持ちを汲んでくれないか」 また始まってしまった。 中谷さんの告白めいたものに逃げ越しな私を、友人という言葉を強調して煙に巻く彼は、休日も仕事終わりも何かと理由をつけてやって来る。 それが三年も続けば、私だって巻かれっぱなしではいられない。 「中谷さん、友人ならば友人の断りも受けるべきだと思うんですが」 「ごもっともだ。だが、真紀さんは忘れている。私は友人としての貴女を望んでいるわけじゃない。アプローチするのは当然だろ」 「……ですから、それもお断りしたはずです」 「そうだな。この三年間ずっと聞かされて嫌になるけれど、そういう強情さも私は好んでいる。もしかしたら今日、明日は気が変わるかもしれない。人の心は移ろうものだから」 「じゃあ中谷さんも、明日や明後日は気持ちが変わるかもしれませんよね」 「否定はしない。未来に断定はないからね。それに私は昨日より今日、真紀さんに愛しさが込み上げてどうしようかと思っている」 ……どうしようかと思うのは私の方なんですけど。 結局、こういう問答に疲れ果て、中谷さんの思い通りに事が運んでしまうのだ。  別に中谷さんが嫌いなわけじゃない。 どちらかというと、偽りのないストレートな物言いや行動力は、例の事件の後の私には有難かったりする。 でも、である。 中谷さんだけはあり得ないのだ。 彼を選べば、まるで伴侶を交換したようじゃないか。こちらは不貞を犯していないのに、見ようによったら夫婦して互いを裏切っていた、裏切りの末にくっ付いた、なんて思われそうだ。 ブレーキのかかる心。 どうしても前に進んでくれないのは、そういう考え過ぎる面や、信じてまた裏切られる怖さが拭えない。 だから中谷さん。 私のことは諦めて欲しい。 時間を無駄にしないで欲しいの。  「無駄だなんて思わない。私は今こうしているだけでも幸せだ。実らない悔しさはあるけれど、愛のなかったあの頃よりずっと生きていると実感出来る」 「……私、声に出てました?」 「いいや。表情を読んだ。間違っていないだろ? 伊達に三年間、真紀さんを見続けたわけじゃないんだよ。だからそろそろ絆されてくれないかな」 「……無理ですね」 「はは、手強いな。まぁ、気長に行こうか」 ソッと手を握られる。 うん、嫌じゃない、嫌じゃないけれど……ね。
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