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声を掛けたのは間違いだった、かもしれない。
元夫婦同士、元不貞相手の夫、現在は他人同士の三人が茶店で面子を揃える光景はシュール過ぎると思う。
元夫も何が聞きたいのか、中谷さんもなぜ了承したのか、そして私はどうしてこんなに居心地の悪い気分になるのか、肌がひりつく緊張感に息苦しくなっていた。
「なんで真紀といるんだよ。たまたま、じゃないよな」
「質問に答えよう。君が香織と結婚し離婚したように、私と真紀さんはこの三年で友人になったんだ。友人同士が出掛けるなんてよくあることだろう?」
「あんな事があったのに友人? 信じられないな」
「……君は何が聞きたいんだ」
元夫は先程から腕を組み中谷さんを睨み付けている。中谷さんは中谷さんで余計な一言を交えているが、事実しか述べてない。
「真紀で遊ぶのはやめてくれ。真紀は関係ないだろ。アレは……あのことは俺の過ちで、あんたと香織の仲を壊したのも俺で……だから、真紀を困らせることはしないでくれないか」
ああ、と納得。
どうやら元夫は、中谷さんが急に現れたことでストーカーみたいに見えたのだろう。酷い誤解だ。でも勘違いで無礼を働くのは、いつかの私みたいに後悔することになる。
心配してくれるのは嬉しいけれど、中谷さんの名誉の為にもちゃんと説明しようと思った矢先、察した中谷さんに言葉を奪われる。
「なるほど……つまり君は、私が例の事で逆恨みのように真紀さんに付き纏っていると、そう見えるわけだ」
「……違うのか」
「全然違う。君が真紀さんと結婚してる時にそれだけの思いやりが持てたなら、現状は違っていたのだろうな」
元夫がぐっと口ごもる。
中谷さんは怒ってない。むしろ通常運転。
少しも表情を変えず淡々としているけれど、時々ズバッと人の心を良くも悪くも抉ってくるのだ。
元夫も痛いだろうが私も痛い。
確かに思ったもの。
他人同士になって向けられる優しさに、気遣いに、なんで今更と。
「じゃあ、友人って言うのは……」
「本当だ。でも明日は分からない」
「は?」
「今日君に会えたことは僥倖だった。過去に傷付き臆病になるのは分かる。だけど、まだ君に愛情を残している疑念もあったんだ。でも違った。それが分かって私は嬉しいよ」
「え……は?」
「さて、もういいかな。私達はこれから予定があるんだ。遠慮してた分、時間は有効に使わなければならないからな。君も元気で。じゃあ行こう真紀さん」
戸惑う元夫は意味が分からないだろう。
意味が分かる私は満面の笑みの中谷さんに青褪める。
アレで遠慮、この強引さで遠慮……?
え、私……無理って言ったよね?
「無理なら初めから真紀さんは私を拒絶している。それこそ殴ってでも逃げている。あの時のようにな。逃げないのは受け入れている証拠だ。ありがとう真紀さん、想いに応えてくれて」
えええっ?! 応えてないんですけどっ?!
( 完 )
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