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後日談2 愛してもいいですか?
中谷さんの断定と確信は私を大いに困らせた。
嫌なら殴れと迫り、殴らないなら今日から恋人だと言われ、望んでもない二者択一をするまで離してくれなかったのだ。
何もしてない人を殴れない。
かと言って、もう片方の提案も受け入れ難い。
堂々巡りのやり取りに根を上げたのは私だった。
中谷さんは一切引く気がない本気の目をしていたし、渇望というか激情というか、とにかく色んな圧が強すぎて押し負けたんだと思う。
深く息を吐いて、最後の足掻きを試みた。
「知ってると思いますけど、私は浮気は許せないタチです。裏切る気があるなら先に言って下さい」
「知ってると思うが、私は元と呼ばれる人へ愛を捧げたことは一度たりともない。それでも不貞を犯したことはないんだよ」
「未来は分からないって中谷さんが言いました」
「昨日より今日、愛しいと言ったはずだ」
「中谷さん……モテますよね」
「嫉妬してくれるなら嬉しい限りだ」
「違います。モテモテなら、いつかフラッとなってもおかしくないと思いまして」
「この三年間、真紀さんでしか抜いてない」
「は? あの、抜い、抜い……てって」
「そうやって恥じらう姿も想像通りだ」
「やめてっ! ななな何をっ、」
「恥じらった後は、私の手で君は官能的に乱れてくれるんだ。そちらはどうだろうな。確かめていいなら今すぐ家に連れて帰るが」
「ちょ、ま、あのっ?!」
「冗談だ。真紀さんの気持ちが固まるまで待つよ。それまでは脳内妄想で励むとしよう」
「言い方っ!」
「ふふ。真紀さんは年齢の割に初心で可愛らしい人だ。その時が楽しみで仕方ない。なるべく早く応えてくれなければ酷くしそうで怖いな」
絶句。
もう言葉が出て来ない。
あけすけ過ぎる中谷さんに羞恥で全身が発火しそうだった。
途中からグダグダになってるし、自分が何を言いたかったのか分からなくなっている。
ああダメだ。逃げ出したい。
ぐるぐる悩む私の腰を中谷さんの腕が攫った。
「待つとは言ったが、我慢のご褒美は前払いだ」
「っ、ななん、の?!」
「ずっと触れたかったんだ。大丈夫。キスだけだ。それ以上はたぶん、まだ、しない、はず、だと思う」
最後?!
中谷さん最後がおかしっ、あ!!
唇に伝わる熱に身体が固まった。
私、三年ぶりにキスしてる?!
キスってこんなだっけ?!
こんな唐突で、こんな心臓がバクバクしてて、こんなに隙間ないほど抱きしめられてするものだった?!
「真紀さん、そんなガチガチになられると入らない。力を抜くんだ」
いやだから、言い方! 言い方がおかしいから!
キスよね?! キスだけなんですよね?!
引き結んだ唇に添わされる親指。
「真紀さんのここ、固く閉じてる。久しぶりだからかな? 舐めてあげよう。柔らかく濡らしてやれば自然と開くはずだから」
ペロリと舌舐めずりする中谷さんは確信犯である。
分かってて言っている。
頭がどうにかなりそうになっている私の唇がこじ開けられるのは、後数秒後。
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