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後日談2 嵐は忘れた頃に 前編
大人の恋愛は難しい。
誰が言い出したのか知らないけれど、三十を超えてその当事者になった私は、まさに今、頭を悩ませていた。
互いにバツのつく同士。
互いに色んな経験を積んだ者同士。
紆余曲折を得て、お付き合いを開始したのはいいけれど、どのタイミングで発展させればいいのか分からない。
中谷さんは待つと言った。
宣言した通りキス以上のことはして来ないけど、泊まりに行っても手を出されないのは悲しいものがある。
私から誘ってみる?
でもどうやって?
若い頃とは違う。勢いもないし肌艶もない。
欠点だらけの身体のくせに、何を武器に誘えばいいのだろう。
我慢しなくていいと言ってみる?
いやでも、何かその言い方は上から目線のような気がする。極上の女ならいざ知らず、並以下の人間が言うのは身の程知らずもいいとこだ。
うーん、どうしよう。どうするべきか。
本日は何度目かのお泊まりデート。
出張から帰って来る中谷さんの為に、彼の家で夕食を作って待つ約束をした。
中谷さんが好きな和食の定番はすぐ頭に思い浮かぶのに、この件については朝からずっと悩んでいても答えは出なかった。
顔見知りになったコンシェルジュと挨拶を交わす。
少しずつ私の私物が増えていく部屋は、相変わらず広くて眺めがいい。
ロマンチックな夜景。
雰囲気はバッチリだしスキンシップもあるけれど。
一線を超えてくれない中谷さんは鋼の精神力で耐えているの?
いやまさか。
過ぎった考えを改める。
改めた後、意識して考えなかったものがジワリと染みのように胸に広がった。
やっぱり私は魅力がないのかも。
不倫されるぐらいだからそうなんだろう。
ましてや相手はあの香織。
小さくて可愛らしいのに胸だけは大きな香織は、元夫も、中谷さんも、二人を手にした過去がある。
……モヤモヤする。
ちょっと気分も悪くなってきた。
良くない精神状態の時に中谷さんに会いたくない。
会えば、変えようのない過去について愚痴ってしまいそうだから。
料理だけ作り部屋を辞した。
中谷さんにはメールして、コンシェルジュにも伝言を頼み外に出る。
遅くなると連絡があった通り、鉢合わせにならなくて良かったと思っていた。
そう、思っていたのだ。
コレを見るまでは。
「……え、中谷さ……」
隣に寄り添うのは間違いない。
香織だ。
夜なのに、他にも人が歩いているのに、なんでスポットライトを浴びたようにそこだけ時が止まって見えるのだろう。
そして、どうして見つけてしまったんだろう。
彼の裏切りの証拠を。
危惧してたものを突き付けられたようだ。
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