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後日談2 嵐は忘れた頃に 中編
「昨夜は体調が悪いのに食事を作ってくれてありがとう。帰り、大丈夫だった? 今日はもう落ち着いた?」
終業十分前到着は変わらない。
態度もいつもと変わらない。
携帯に残る着信、メール、昨夜は返さなかったし朝のメールも見なかったのに、そこには一つも触れずあたかも恋人を気遣う風を演じている。
「風邪引いた? 顔色が悪い。無理して仕事に来たんじゃないのか。送るよ。早く帰ろう」
「いえ、今日は一人で帰ります。多忙な中谷さんに移しちゃ悪いので」
「そんなの気にしなくていい。真紀さんの風邪なら喜んで貰いたいくらいだ」
「あげませんよ。今もこれからもずっと一生、そんな日は訪れません」
ああ、嫌な言い方だ。
色んな意味を含ませた拒絶に、中谷さんの眉がピクリと反応した。
いつになく強い口調、笑顔なんて浮かべようもない心情、私自身の纏う空気が鋼鉄だと自覚している。
流石におかしいと思ったのだろう。
中谷さん雰囲気もガラリと変わった。
最初の頃と同じ、冷徹で有無を言わせない傲慢さが溢れている。
ふーん、そう来るんだ。
謝罪や言い訳もなく逆ギレ?
酷い態度にムカついた?
でもそうか、中谷さんは見られたことを知らないから。突然の変わりように憤慨したくもなるよね。
「……なるほど、風邪じゃなかったようだ。それで? 私は真紀さんに何かしたのだろうか」
「さあ? 」
何かってなんだ。
何で私に聞くの。
私が気付いてないと思ってとぼけてる?
バレてないと思って紳士なフリをしてるの?
中谷さんも元夫と同じだった。
嘘だった。
偽りの愛だった。
塞がりかけた傷に塩を塗っておいて、絶望のどん底に叩きつけておいて、それはないんじゃない?
「……どうやら私達は話し合いが必要らしいな」
「話し合い? 話してどうするの。結果は結果だし事実は事実でしょ。もう帰る。貴方も帰ったら?」
そして、香織とやり直せばいい。
元サヤってやつでいいじゃない。
私に隠れてコソコソ会うこともないし、要らなくなった私を捨てればいいんだから。
今日は言い負けるつもりはない。
巻かれるつもりもない。
中谷さんの全てを全拒否で、荷物を手にして会社を出た。
何か聞こえたような気がしたが振り返らなかった。
二度目の痛みは耐え難く、ほんの少しの期待も持ちたくないし持てなかったから。
会社はやめる。家も引っ越そう。
中谷さんに関わるものを消し去って、一からどこかでスタートを切れば、この痛みもいつかはマシになるのだろうか。
大人になるってしんどい。
辛いのに、苦しいのに、生きて行く為の算段を自分で決断しなきゃならないもの。一人ってそう言うことだ。仕方ない。
頭を目まぐるしく働かせていたから気付かなかった。自宅マンションに待ち構えていた人に。
「真紀。久しぶり……」
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