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後日談2 嵐は忘れた頃に 後編
何しに来たの。
何で会いに来たの。
はにかみならがら微笑む香織は三年経った今もあの頃と同じ、年齢を感じさせない可愛いさだった。
昨日とは違う。今日は間近で見ている。
劣等感を刺激された。
自分がどれほど女として価値がないのかを、思い知らされたようだ。
「ごめんね突然。私……真紀に謝りたくて。最低なことをしたと思ってる。許してくれないと分かっているけど、ケジメとして言いたかったの」
喧嘩を売りに来たのだろうか。
元夫だけじゃなく、中谷さんまで私から奪ったことを笑顔で告げる香織に呆然となる。
三年前もだけど、どういう神経をしているの。
私に恨みでもあるの。
あまりの怒りと屈辱で言葉が出て来ないのに、目の前の香織は笑っている。笑って話し続けている。
「私ね。真紀が羨ましかった。愛される喜びを知る貴女に嫉妬していたんだと思う。今考えればだけどね」
「……へぇ、そう。だから今も私を傷付けるの? 嫉妬って何? 香織は男なら誰でもいいわけ? 私から取れるものなら何でも欲しいわけ?」
「え、?」
「今更何の用なのよ。謝罪に来たの? 違うわよね。惨めな私を嘲りに来たんだよね。どう? 香織のお眼鏡に叶ったかしら」
叶ったはずよ。だって笑ってるもの。
幸せだって顔をしてるもの。
愛のなかった中谷さんから愛を得られて嬉しいのかな。嬉しいわよね。仮にも元同士。二人して未練があったのでしょうね。
「あ、あの、ごめんなさい! 私、あの、結婚が決まったから、」
「バカにしないでっ! 何よ、もう……そう言うことなのね。わざわざ報告に来て何がしたいのよっ!あんたも中谷さんも最っ底!」
まただ。
まただった。
一人で浮かれていた。
裏切られた過去を教訓にせず、中谷さんの愛を信じてしまった私が悪い。
何が手を出してくれない、だ。
当たり前だ。
私は偽物だもの。
一番大事な香織に操を立てていた中谷さんは、元夫の言うように私で遊んでいたんだろう。
はは、バカみたい。
弄ばれていただけ。
もしかしたら、元夫と別れを選んだ私を恨んでいたのかもしれないけれど。
「帰って。帰って中谷さんと笑えばいいわ。計算高い彼と男の間をフラフラする香織となら、やっぱりお似合いよね。どうぞお幸せに。二度と私の前に現れないで!」
「ごめんなさ、あの、本当にごめ、」
「うるさいうるさいうるさい! 帰ってよ! 早く帰れーーっ!!」
口先だけの謝罪なんて要らない!
聞きたくない!
前回よりも激しい怒りで思わず手を振り上げた瞬間、
「そこまでだ。真紀さん」
聞き慣れた低い声、嗅ぎ慣れた香り、ついさっき別れたばかりの中谷さんに背後から抱きすくめられていた。
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