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後日談2 愛に惑う 前編
………。
…………あれ?
私、どうしちゃったんだろう。
重くて霞む目を開けて、自分がベッドに横たわっていることを知った。
喉が痛い。
頭も痛い。
身体も怠くて指一本動かすのも億劫だ。
「起きたか」
ゾワッと鳥肌が立つ。
やけに近くでした声に、微睡んでいた意識が一気に覚醒した。ついでに、なぜこうなっているのか思い出していた。
香織を殴ろうとした私を止めたのは中谷さん。
それに逆上して、物凄い罵りを叫んで暴れ、ほぼ恐慌状態で無様な姿を晒したことを覚えている。
号泣した。
瞼が重いのはそのせいだろう。
たくさん蹴った。
たくさん腕にも爪を立てて引っ掻いた。
私を背後から抱き締める中谷さんの腕は酷い有様だ。ミミズ腫れが何本も走り、血が滲んでいる。
記憶はそこまでだけど、泣き疲れ暴れ疲れた私を中谷さんが自宅に連れて来たのだと思う。推測だけど。
背中が暖かい。
感じたくない温もりに、またジワリと涙が込み上げる。
「離して下さい」
「嫌だ」
「帰ります」
「帰さない。今回は本気だ」
「やめて下さい。もういいでしょ」
「何がいいんだ。何も良くないだろ」
また始まるお馴染みの押し問答。
答えるのも、真面目に返すのもバカらしくなる。
身動ぐ身体はやっぱり無駄で、中谷さんの腕の力が強くなるばかりだった。
まだ遊び足りないのか。
それとも、怪我をしたから慰謝料でも請求するつもりかな。もう、どうでもいいや。
「聞いてくれ真紀さん。君は誤解している」
「してないよ」
「いいや。私と香織は何でもないんだ」
「嘘つき」
「嘘じゃない。事実だ」
「香織……結婚するんだって?」
「ああ、そうだ」
「あっさり肯定するんだね」
「それも事実だからな」
「ふざけてんの? また殴られたいなら言って」
「殴って気が済むなら受けるよ。何度でもいい。力一杯やってくれ。ただし、殴った後は仲直りだ」
カッと頭に血が昇る。
何を言ってるの、何がしたいの、仲直り?
冗談じゃない!!
「流石、愛がなくても抱ける人だわ。私は中谷さんの愛人になる気はないわ」
「当たり前だ。誰が愛人にするものか。愛がなくても抱けるだと? いつの話をしている。真紀さんと出会ってから私が望むのは愛あるセックスだけだ」
「そうでしょうね。だから私を抱かなかった」
「ちょっと待て。何の話しだ」
「一晩過ごしても手を出さないのは、香織の為なんでしょう? あの日も仲良さ気に寄り添っていたもんね」
いつまで経っても言わないから、私から中谷さんの秘密を暴露してあげた。
驚きで声も出ないらしい。
腕の力が緩んだ。
ここまで言われたら認めるしかないよね。
腕から脱出すべく起き上った途端、同じく起き上った中谷さんに引き倒された。
痛くないけど乱暴過ぎる。のしかかる彼を睨もうとして息を呑んだ。
「……なるほど。ようやく合点がいったよ。抱え込んで悩む君は一人でそう思ってたわけだ。私に確認も取らず、暴走し、あげく離れようとした。色々言いたいことはあるが、まずはやっと許しが出たことを実行させて貰うよ。今から君を抱く。身を持って私の愛を知るがいい」
獣だ……ここに、獣がいる。
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