後日談2 愛に惑う 前編

1/1

458人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ

後日談2 愛に惑う 前編

………。 …………あれ? 私、どうしちゃったんだろう。 重くて霞む目を開けて、自分がベッドに横たわっていることを知った。 喉が痛い。 頭も痛い。 身体も怠くて指一本動かすのも億劫だ。 「起きたか」 ゾワッと鳥肌が立つ。 やけに近くでした声に、微睡んでいた意識が一気に覚醒した。ついでに、なぜこうなっているのか思い出していた。 香織を殴ろうとした私を止めたのは中谷さん。 それに逆上して、物凄い罵りを叫んで暴れ、ほぼ恐慌状態で無様な姿を晒したことを覚えている。 号泣した。 瞼が重いのはそのせいだろう。 たくさん蹴った。 たくさん腕にも爪を立てて引っ掻いた。 私を背後から抱き締める中谷さんの腕は酷い有様だ。ミミズ腫れが何本も走り、血が滲んでいる。 記憶はそこまでだけど、泣き疲れ暴れ疲れた私を中谷さんが自宅に連れて来たのだと思う。推測だけど。 背中が暖かい。 感じたくない温もりに、またジワリと涙が込み上げる。 「離して下さい」 「嫌だ」 「帰ります」 「帰さない。今回は本気だ」 「やめて下さい。もういいでしょ」 「何がいいんだ。何も良くないだろ」 また始まるお馴染みの押し問答。 答えるのも、真面目に返すのもバカらしくなる。 身動ぐ身体はやっぱり無駄で、中谷さんの腕の力が強くなるばかりだった。 まだ遊び足りないのか。 それとも、怪我をしたから慰謝料でも請求するつもりかな。もう、どうでもいいや。 「聞いてくれ真紀さん。君は誤解している」 「してないよ」 「いいや。私と香織は何でもないんだ」 「嘘つき」 「嘘じゃない。事実だ」 「香織……結婚するんだって?」 「ああ、そうだ」 「あっさり肯定するんだね」 「それも事実だからな」 「ふざけてんの? また殴られたいなら言って」 「殴って気が済むなら受けるよ。何度でもいい。力一杯やってくれ。ただし、殴った後は仲直りだ」 カッと頭に血が昇る。 何を言ってるの、何がしたいの、仲直り? 冗談じゃない!! 「流石、愛がなくても抱ける人だわ。私は中谷さんの愛人になる気はないわ」 「当たり前だ。誰が愛人にするものか。愛がなくても抱けるだと? いつの話をしている。真紀さんと出会ってから私が望むのは愛あるセックスだけだ」 「そうでしょうね。だから私を抱かなかった」 「ちょっと待て。何の話しだ」 「一晩過ごしても手を出さないのは、香織の為なんでしょう? あの日も仲良さ気に寄り添っていたもんね」 いつまで経っても言わないから、私から中谷さんの秘密を暴露してあげた。 驚きで声も出ないらしい。 腕の力が緩んだ。 ここまで言われたら認めるしかないよね。 腕から脱出すべく起き上った途端、同じく起き上った中谷さんに引き倒された。 痛くないけど乱暴過ぎる。のしかかる彼を睨もうとして息を呑んだ。 「……なるほど。ようやく合点がいったよ。抱え込んで悩む君は一人でそう思ってたわけだ。私に確認も取らず、暴走し、あげく離れようとした。色々言いたいことはあるが、まずはやっと許しが出たことを実行させて貰うよ。今から君を抱く。身を持って私の愛を知るがいい」 獣だ……ここに、獣がいる。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

458人が本棚に入れています
本棚に追加