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後日談2 愛に惑う 中編
「ほんっっっとうにすみませんでした!!」
床に土下座する男をベッドの上で見やる。
男の頭を足蹴にする中谷さんは声が小さいと、ぐりぐりと足裏で小突いていた。
「俺は言ったはずだよな。俺より先にプロポーズするな、俺が話す前に真紀さんと会わすな、俺が真紀さんと結婚するまで絶対に待つように、とな」
「っん、いえ、はい。おっしゃる通りです。約束破ってごめんなさい」
「ごめんで済んだら警察はいらねーんだよ。テメェはどう落とし前を着けるつもりなんだ。俺の真紀さんが傷付いたんだぞ。それだけじゃねぇ、危うく俺は捨てられるところだったんだ。間一髪で間に合ったからいいものの、もし間に合ってなかったらテメェと香織は今頃死んでるからな」
「誠に申し訳ございませんでした!!」
執拗にぐりぐりと男の頭を踏み付ける中谷さんは、口調も随分荒くて怖い。俺って言ってる。初めて聞いた。
謝る男に誠意が足りんと、また小突いている。
「あの……中谷さん、えと、この方は……?」
掠れる声に羞恥が湧く。
ベッドに横たわったまま口を挟むのは勇気がいったけど、誰かさんのせいで腰は重だるいし身体の節々も痛いしで、動くに動けなかった。
かろうじて裸ではない。
中谷さんのシャツ……だろうか。着た記憶はない。
上半身は隠れているけれど下半身は丸裸な私は、シーツに包まりながらこの状況に困惑していた。
「ああコレ? コイツは俺の従兄弟なんだ。下の階に住んでてな。まだ眠る真紀さんに気付かずにドアを叩くもんだから、思わず殴ってしまったよ。事後の真紀さんを見ない事を条件に部屋に入れたんだ」
確かに一度も目が合ってない。
起きた時には既に土下座で、何事かと驚いた。
丸まる背中しか見えないけれど、先程の会話でこの体勢の意味を知る。
「もしかして……彼が香織の……?」
「そうだ。この阿呆が香織の相手で俺の約束を丸っと無視したクソだ。若いから耐えれなかったんだろうな。生でヤリやがったから香織は妊娠中だよ」
なんと!!
「香織は香織でコイツと結婚すれば俺と親戚になるもんだから、三年ぶりに挨拶に来たんだ。それをたまたま真紀さんに見られてしまったらしい。コイツ繋がりで俺と真紀さんが付き合っているのを知っていたから、香織はあの時出来なかった謝罪をしに行ったんだよ。俺と真紀さんが結婚すれば真紀さんも必然的に親戚だからな。全く……悪いタイミングは重なるものだ。それもこれもこの阿呆のせいだが」
「ほんっっっとうに申し訳ありませんでした!!」
ああ、そうだったんだ。
あーー、なんて言うか脱力、自己嫌悪、安堵、色んなものが積み重なって放心状態だ。
「もういいから帰れ。これから俺は真紀さんとイチャイチャタイムなんだよ。今度邪魔しやがったらその面ボコボコどころじゃないからな」
叩き出されるように従兄弟は出て行った。
……が、鍵をキッチリ締めて戻る中谷さんの顔は、またしても獣のような獰猛さだった。
あれ、私……ヤバい?
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