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後日談2 愛に惑う 後編
中谷さんの知らなかった一面を垣間見てしまった。
逆らう気も起きず、抱き起こされるまま彼の腕に包まれて、心許ない下半身事情に身を固くする。
「さて、真紀さん……私の誤解は解けただろうか」
「はい……ごめんなさい」
「心が抉れるほど辛かったよ」
「はい……ごめんなさい」
中谷さんの従兄弟じゃないけれど、私もひたすら謝罪するしかない。勘違いだった。勝手に思い違いをしていた。暴れたことが恥ずかしいし怪我もさせた罪悪感が半端ない。
「そもそも、抱いて欲しかったなら言ってくれ」
「こっ、ここ、ここでソレを言いますか……」
「勿論だ。それも辛かったんだから。無駄に我慢した私を褒めて欲しいものだ」
「シ、シタじゃない!」
「あれはシタうちに入らない。念願叶ってようやく真紀さんを抱けたのに、怒りのあまり性急になってしまった。三年温めた妄想に遠く及ばない。やり直しを希望する」
「む、無理!!」
性急?! 嘘ばっかり!!
中谷さんはそれはもう、ねちっこかった。
年の功というかテクニックというか、執念深く私の反応するとこばかりを狙われ、何度泣きを入れたか分からない。
無駄だったけど。聞いてくれなかったけど。
「私はもう若くない。一回がやっとだから真紀さんを満足させるには時間が必要なんだよ。あんなもんじゃ全然ダメだ」
「ずっとでしたよね?! しつこかったですよ?!」
回数の問題じゃないんです!!
時間の問題でもないんですよ!!
満足どころか振り切れてましたから!!
「今まで愛あるセックスをしたことがなかったから、技巧が拙くてすまない。次は頑張るよ」
「私の話し聞いてました?!」
「こんなに元気な真紀さんを見れば分かるよ。物足りなかったんだよな」
「殺す気ですか?!」
動けないんですよ?!
腹筋が筋肉痛って初めてです!!
腰やあらぬ部分にも感覚がない!!
これ以上頑張られたら腹上死しますから!!
「妄想では真紀さんはずっと失神してた」
「死んでるじゃない!?」
「だがすまない。やり直しは後日にして欲しい。不甲斐ないことに勃ちはするが、性欲自体は無いみたいだ。今は抱けそうにないな」
謝罪は要りません。大いに結構です。
良かったです……中谷さんが今の年齢で。
若かったら確実にあの世行きだったような気がする。
「初夜ではこんな失態はしでかさないから安心してくれ」
「は? しょ、しょ、初夜って……?」
「知らないのか。結婚後の初めての夜のことだ」
「いや、知ってますけども……」
「真紀さんはハネムーンはどこがいい? 北か南か。世界一周でもいいぞ」
「いきなり話が壮大になってますよ」
「香織が真紀さんと親戚になるかもと言った時、否定しなかったじゃないか」
「いや、あれは、」
「私達はいい大人だ。大人の恋愛に結婚は付き物だろう? 婚約指輪は付き合う前から用意している。プロポーズはやり直しの際に素敵なホテルを予約しよう。後は式場だな。候補はあるが真紀さんの意見を優先するよ」
さあ、どこがいい、と。
大量のパンフレットを差し出された。
……あの、逃げ道がないんですけど。
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