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悪夢の続き
「ねぇ……なんで不倫したの」
私が嫌いになった? 飽きた? 香織の方が魅力的な肉体をしていたの? もしかして、ああいう可愛い系が好みだった? 私は違うもんね。背は標準より高いし胸はないし抱き心地が良いとは言えないもんね。
差し出されたコップを受け取らず、怒涛の言葉が勝手に口から滑り出てくる。
顔は見なかった。
見たら手加減なしに殴りそうだから。
「私の目を掠めてするセックスはどうだった? 興奮した? 相性が良かった? 気持ち良かった? 私とよりも熱く燃えた? 」
満足したから続いていたんでしょう?
バレなければそのままずっと出来たのに、バレて残念よね。あ、でも子供がいるから丁度良かったのか。香織の代わりに私を抱けばいいもんね。妻という名分があるもの。物足りなくても我慢するわよね。
「あ、あ、真紀……真紀ごめっ、」
「謝るなぁぁぁーーっ!
それは何の謝罪なの。どうして謝るの。悪いことしたから? 傷付けたから? 香織の夫にバレて騒動になってしまったから? 違うわよね。謝って許されたいからよね?!」
バシッとコップを叩き落とす。
床に水と破片が散らばる派手な音がした。
「違うっ……違う真紀! お願い聞いて、」
「触るなぁぁぁーー!!
聞く? 何を聞けばいいの。香織とあんたの馴れ初めをまた聞けっての? それとも、どこで会って何回ヤッてどんな体位を試して何度絶頂したか言うつもり?」
ふざけんなふざけんなふざけんな!!
何を言おうがどうしようが変わらないじゃない。
前と同じ二人には戻れないじゃない。
いつもなら自分の食べた皿すら片付けなかった。
いつもなら私の為に水なんて用意しなかった。
面倒くさいって私に甘えていたくせに、どうして今日は綺麗なの。どうして今日は率先してしようとするの。
ご機嫌伺い?
出来る夫アピール?
反省してますって態度を見せてるつもり?
ただでさえ苛ついているのに、そういう事をされればされるほど、ああやっぱりアレは事実なんだ、やっぱり裏切っていたんだと、じわじわ実感させられるようで辛い。しんどい。苦しいの。
ギリギリで保っていた私が壊れていく。
溢れんばかりの感情の波に飲み込まれ、私を傷付けた夫を貶めてやろうと、下品で口汚い言葉が次から次へと吐き出される。
ああ、誰か私を止めて。楽にしてよ。
視界が歪む。
頬が濡れて鼻も詰まって喉奥に何かがつっかえている。
気付いたら、外に飛び出していた。
ポケットが震えている。
たぶん携帯、夫だろう。
切れてはかかり、切れてはかかり、それを振り切るようにして、家から遠く遠く遠くへと動き出す。
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