地蔵峠のやさぐれ観音と彼と私の物語

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「あっ、今蹴った」 真夏のうだるような蒸し暑さから逃れるため、夫の和佐(かずさ)に頼んで自宅から二時間ほどかけて、長野県にある湯の丸高原に来ている。 上信越自動車道を降りてすぐという立地の良さの割に、人が少なくて私たちの穴場スポットだ。新張(みはり)の交差点に一番目として如意輪観音像が立っている。そこから、湯の丸高原の駐車場付近の八十番十一面観音像まで、八十体の仏像が道端に約一町間隔で並んでいる地蔵峠を通って行く。ちなみに百番は旧鹿沢温泉にあり、そこまでを含めて百体観音石造町石と言われている。小さな頃は、家族でドライブに来ては一番から順に数えて遊んだ事を思い出す。 私、土屋みどり(つちやみどり)は、高校の同級生だった土屋和佐(つちやかずさ)と八年の交際の後に結婚して、今お腹には八ヶ月に入った赤ちゃんがいる。 「えっ、マジ。お〜い、もう一回蹴って〜。パパだよ〜」 ポコっ 「蹴った。パパだってわかるんだね〜。早く会いたいな〜」 「和佐は絶対に親バカになるよね」 私の大きくなったお腹に、頬をスリスリしている和佐を見て思わず口から出てしまった。 「親バカ結構。だって、こんなに可愛いんだから」 「まだ生まれてないんだから、顔立ちなんて分かんないじゃん」 「バカだな。このお腹の形みたら、美形が生まれてくること確定だろう」 キラキラした目で私を見ながら、赤ちゃんが生まれる前から親バカ全開なバカ親発見。 まあ、そんなところが好きなんだけれどね。 「よ〜し、涼しさも自然も満喫したし、途中で蕎麦でも食べて帰ろう」 帰り道、今度は八十番観音像に別れを告げ、途中美味しいくるみ蕎麦と鬼おろし蕎麦を食べて、新張の一番観音に通り過ぎ様に会釈をし、高速道路のインターチェンジに向かった。その時……トラックが対向車線を超えて、私たちの車に向かってきた。
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