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雪姫
「騎士がなんなのか、を説明する前に、いくつか話しておきたいことがあるの。
長くなっちゃうけど聞いて欲しいな。
まず、そうだね。
私と鈴音が部活に入っている、っていうのは嘘。
騙すようなことしてごめんね。
なんでこんなこと言ったのかっていうと、それには理由があるの。
私と鈴音は『Q.Q』。正式名称は『Queens.Quintet』っていう団体に所属しててね。
日本語でいうと、『姫々の五重奏』てとこかな。
この団体が何をしてるかっていうと、未来を担うピアニストの育成、でね。
この団体ができたのは、三年前。
私が小六で、鈴音が中一の頃ね。
春と秋の二回、『Q.Q』主催のコンクールがあって、そこで成績上位五人の高校三年生まで
の女の子たちが選ばれるの。関東・関西・それぞれ二ブロックで5人ずつ。
だから計十人ね。
その五人は、栄誉を讃える称号として『姫』の名が与えられる。
そのコンクールには、現在姫の人も参加して行われる。
いわばバトルロワイヤルみたいなものね。
姫も、姫でない人も一緒に争うって言う感じ。
でも真面目にプロのピアニストを目指してるよな人たちはそんな団体に所属したりせず自分で講師をつけて練習したりするって?
さすが弦真君。よくわかってるね。
でも、同年代のピアノを弾いてる子達はみんなこの団体に入りたがる。
なんでだと思う?
わかんないか。なら説明してあげる。
意外と単純なんだよ?
正解を言うとね、この団体に所属して姫になった人の中から二人。
毎年二人確実にプロになることができるの。
すごいでしょ?
普通だと、音大とかに通ってたくさんのコンクールで結果を残したりしないとプロにはなれないんだけどね。
でも、Q,Qに所属して姫として一年間残り続ければいわば最小限のお金でプロ入りが果たせるんだ。だからみんな躍起になって姫になろうとする。
ここまで大丈夫?うむ、よろしい。
それで続きなんだけど、Q,Qに所属するメリットはもういくつかあってね。
まずは、身近なところに優秀なライバルがいるから切磋琢磨しあえる環境が整っていること。
次に、多額の援助金が出ること。
このお金はコンクール参加費だったり、Q,Qが主催してるアカデミー参加費に使えるの。
まあそんなところかな。
じゃあ騎士はなんのことかって?
今説明しようと思ってたんだからね。
決して脱線してたわけじゃないからね。
ともかく、その選ばれし五人には姫のそば付きである、騎士を付けなければならないっていう規則があってね。
姫は自分で騎士を選ぶんだけど、その騎士が何をするのか、っていうのがこの話の本題よね。
騎士は、小説とかみたいに姫の身を守る、のもそうだけど姫とともに連弾を行ったり、一緒にコンクールに参加する、っていうのが主な仕事かな。
将来有望なピアニストが怪我しないようにと言うことで、同年代の気心の知れた友人に騎士になってもらい、姫の警護をするってことらしいよ。
なんでも、最初はSPみたいな人たちが付いてたらしいんだけど、目立つじゃん?
JKの横に黒スーツ黒眼鏡のごつい人が立ってたりしたら。
そんな理由からSPをつけるのをやめて、騎士になった人に護身術・護衛術を教えるんだって。
まあ、身について悪いものではないから今のところ反対意見も出てないそうよ。
そうは言っても、姫の身を守る、みたいなことは早々起こらないけどね。
この二十一世紀にね。
なんで私がこんな話をしだしたのか、ってのはもうだいたい見当ついてると思うんだけど。
一応大事なことだからちゃんと言うね。」
そう言って、舞雪は一呼吸おくと、弦真に頭を下げ、手を差し出した。
「弓波弦真くん。どうか私、雪姫の騎士になってくれませんか」
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