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出逢い
「ふう。よかったよ、君の演奏。すごい優しくて懐かしいような音だった」
彼女は額の汗を拭いながら、弦真に話しかける。
「私は、小花衣舞雪。君は?」
弦真は舞雪の方へ向かい合う。
「俺は弓波弦真。はじめまして」
そう言って弦真は、一息ついて次の言葉を発した。
「あの、ちょっとお願いがあるんだけど、聞いてもらえるかな…」
弦真はおずおずと舞雪に問いかける。
「ん?何?言ってみて。」
弦真に話の続きを促した。
「も、もし君が良かったら、これからも俺とピアノを一緒に弾いてくれないかな・・・」
そう言われた舞雪は、目を白黒させる。
「え、私?きみとは初対面だよね?」
舞雪は戸惑いながら弦真に問う。
「君にとっては初対面だろうけど、俺は君を見るのは今日で二回目なんだ。
ほら、一年前に君がここでピアノを弾いてた時、俺はここで君の演奏を見てたんだ」
彼女は合点がいったように頷いて、ふと首を傾げた。
「ああ、なるほどね。でも、なんで私と?」
弦真は舞雪の方へ向かい直った。
「俺が今ここでピアノを弾いているのは、一年前のあの日、俺が君のピアノに出会ったからなんだ。君のように感情豊かに、他の誰にもできないような迫力のあるピアノが弾けるようになりたい。そう思って、俺はピアノを始めた。だからこそ君と。君とピアノを弾くことは俺の夢なんだ」
弦真は一語ずつ丁寧に言葉を紡いでいく。
「ごめん、迷惑だったよね?」
謝罪の言葉を口にする弦真に対して舞雪は、はにかみながら言った。
「そっか。そういうことなら、いいよ」
舞雪は弦真に向かって微笑みながら戯けた表情を浮かべる。
「あ、これって告白の一種?きゃー」
舞雪は、からかうように弦真の肘をつつきながらそう言った後、
真面目な顔になって一度頷いた。
「お受けします」
舞雪の返答を聞いた弦真は目を白黒させた。
「いいの?本当に?」
弦真は信じられない、と言った表情を浮かべる。
「私は嘘を言わないって決めてるのです」
舞雪はふと弦真に問いかけた。
「あ、そういえばさ。弓波くんって、何高?」
弦真は、舞雪のペースにのせられていることに、苦笑しながら答える。
「僕は清水東高校。君は?」
舞雪はからからと笑いながら弦真に応える。
「おおっ奇遇だね。私も清水東だよ」
おもむろに、舞雪は弦真に手を伸ばす。
「じゃあ、改めて。」
わざとらしく、こほんと咳をしてから舞雪は言った。
「これからよろしくね?弓波弦真くん」
舞雪は満面の笑みでそう言った。
「具体的にはこれからどうするつもり?弓波くん」
二人は集中していて全く気がついていなかったが、二人の連弾には多くの聴衆ができていた。
演奏を終え、周囲の情報が目と耳に飛び込んで来た時、想像以上の数の聴衆に弦真は目を疑った。
あたふたする弦真に舞雪は小さな声で指示を出し、弦真は驚きながらも頷いた。
一年前の時のように二人は小さく礼をし、そそくさと人の輪から抜け出した。
ピアノから離れて、二人は並んで商店街を歩いていた。
「え、どうって言われても。そもそも了承してもらえると思ってなかったし…」
弦真は顎に手を当てて、少し考える。
「君はどうしたい?」
弦真が舞雪の質問に質問で返すと、舞雪は少し不服そうな表情を浮かべた。
「ねえ、弓波くん。いくらなんでもこれから一緒にピアノを弾こうっていう美少女に『君』って呼び方は、ないんじゃないの?あと、同学年なんだし、もうちょっと話し方くだけていいよ」
弦真は、舞雪と話してから終始驚いているのが、舞雪のこのテンションだ。
一年前のあの日に見た、舞雪のイメージ像と実物があまりにもかけ離れていたのだ。
弦真の中での舞雪のイメージ像は、とにかく可憐でお淑やかなお嬢様、と言う感じだったのだが、今のところ舞雪はそのイメージに当てはまるようではなさそう、な気がする。
「なあ、小花衣。自分で自分のこと美少女っていうのはちょっとどうかと思うのは、俺だけ?」
弦真は、先の舞雪の発言について触れることで、彼女の名前を読んだことの照れ隠しとした。
「いやさー、事実じゃない?自分で言うのもなんだけど、私って周りの人よりは見た目いい方だと思うんだけどなぁ。弓波くんはどう思う?」
弦真は、舞雪の方を一瞬見ると、明後日の方向をむいて答える。
「知らないよ、まあでも悪くはないんじゃないのか?」
「わかってるじゃない、弓波くん。お礼に今度パフェでも奢ったげる。」
舞雪は弦真の肘をつつきながら破顔した。
「とりあえず今日はやめとく?時間というか、場所がないし」
二人で話しながら歩いているうちに、自然とそういう結論に至った。
「そうするか。でも、学校で練習とか無理だろ?小花衣にも、部活はあるだろうし」
弦真の前を歩いていた舞雪は、振り返って答える。
「んー、部活の始まる前とか後とかなら大丈夫だよ?」
そう言って舞雪はてくてくと先ほどよりも速く歩いていく。
弦真は、舞雪のこのテンションには慣れるしかない、と思いながら舞雪を追いかけていった。
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