君と僕とのふれあいについて

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「どうもどうも、ご無沙汰してますがお元気でした? 世の中窮屈になってきてますよね」 『まあ人口増えてるからねえ。息苦しいのもそのせいで』 「いやいや、そういうことじゃなくて、あの感染症の話で自粛だとかリモートワークとか言ってるじゃないですか」 『それな。あ、それ、それそれ。ちょっと聞きたいことがあるんやわ』 「なんですか藪から棒に。あなたが僕に聞きたいこと、いつものことですが、いったい何でしょう」 『そのリモートっちゅうやつやねんけどね』 「はいはい、リモートワークのことですか」 『リモートはリモートでも、なんでもリモート飲み会っちゅうのをやね、やるらしくて』 「あら、旬の話題。なるほど誘われたわけですね」 『……いや、誘われてはない』 「あ……誘われてないんですね。それは失礼しました」 『気まずいからそんな顔せんで。まあそれはどうでもよろしいから』 「いや、結構重要な部分ですよ」 『ほんで、リモート呑み会っちゅうのはなんやねんな』 「なんやねんな言われましても、リモートで参加する呑み会のことです」 『……そこは君、お伺いしとるねんからもう少し具体的に言うてくれないと。てんでわややわ」 「具体的に言われましても、何て言いますかね、パソコンをインターネットに繋いで、同時中継でやる呑み会のことですね」 『ちゅうとアレかいな。店員さんはおらへんのかな』 「……いませんね」 『え、そら困るがな。ほな、飲物は誰に頼めばええのん』 「それは、自分で用意せんといけません」 『アテは? 枝豆も自分で湯掻いて、出汁巻き卵は自分で巻いて焼かなあかんのかいな』 「そうですね、ほっけも自分で焼いて、おつくりはさばかないけませんな」 『……めんどくさいがな。それやったら家呑みとかわらんやん』 「まあデメリットの話ばっかりしてもね」 『ほなメリットは』 「メリットですか」 『せやがな。メリットを示してもらわんと、おいそれと参加するわけにはいかへんがな』 「いやでも、さっき誘われてないっていう話でしたけど」 『そのうち誘われたときのための心構えがいるっちゅう話やがな。察して?』 「察してってあなた」 『ほんで、メリットは」 「聞いた話ですよ。聞いた話によるとですね、切り上げやすい言う話です」 『ほう。何をやがな』 「呑み会をです。呑み会行くと、二次会三次会カラオケ~ってなかなか抜けられへんじゃないですか」 『ええ、それじゃあ何かい。みんないつもはよ帰りたかったってことかいな』 「そういうことになりますかね」 『ええー……、つら~』 「あと呑みすぎても家の中ですから、すぐに寝られるのがいいって話も聞きますね」 『なるほど。粗相するもんがおっても人の迷惑にならんっちゅうわけやね。そらええわ』 「まあいつも迷惑かける側の人が言ってたら世話ないですけど」 『誰が迷惑かける側の人間や』 「あなたですよ」 『…………』 「…………」 『ま、なんやメリットメリット言うけど、まんまひっくりかえしたらデメリットやない?』 「それ言いなすったらデメリットも同じことですがね。自分で用意するから飲物代も食べ物代もお店で呑むよりも安くあがりますし、人に合わさんと好きなもの用意できます」 『……なるほど。ものは言いようゆうやつや』 「わかっていただけましたか」 『はいはい、リモート呑み会についてはだいたいわかったわ。おおきに』 「そらよかったです」 『ほしたら次の聞いてええ?』 「うへえ、まだありますか」 『もうちょっと付き合うてえな』 「……そういうところなんですけどね」 『なんか言うた?』 「いえいえ、それで何でしょうか、次のお題は」 『ほな遠慮なく』 「どうぞどうぞ」 『オンライン呑み会ってのは何やろ』 「……あ、同じですね」 『同じ? 何と何が同じ?』 「リモート呑み会と、オンライン呑み会が、同じです」 『ええ、同じなんかいな。何か作法が違うんやないの』 「まったく同じですね」 『ほなリモートって何、どういう意味?』 「リモートは離れているって意味ですね。離れてインターネットを介してする呑み会がリモート呑み会です」 『ほんならオンラインは何やいな』 「オンラインはつながっている言う意味ですね。インターネットを介して繋がってする呑み会がオンライン呑み会」 『えー、おかしないそれ。せやったらインターネット呑み会やんか。なして一番重要なところ省くねんな』 「……確かに。随分とまた鋭いツッコミするじゃないですか」 『あたり前やがな。何年ツッコミ担当してると思とんの。バシッといくでバシッと』 「いやいや、こっちはずっとあなたがボケやと思うてましたけど」 『君がボケて僕までボケたらなんのことやらわにわからんことになるがな』 「まあ、すでにようわからんことになってますけどね」 『君のそれはボケやのうてボヤキやで』 「これはまた鋭いツッコミ。ありがとうございます」 『あいや、どういたしまして。ってそらもうええがな。なして一番肝心なとこ端折って意味をぼやかすんやと言う話。なんかもう日本人らしいっちゅうか何ちゅうか』 「ほうほう、一番肝心なとこ端折って意味をぼやかすのが日本人らしいとは。いったいどういうことです」 『お、聞きますかそれを』 「教えて頂きましょう」 『まあ何ちゅうか、君お昼間の挨拶、ちょっとしてみてくれる』 「はいはい、昼の挨拶言うたら、こんにちは、ですかね」 『こんにちは、よろしい。そしたらこんにちは、てどういう意味?』 「え、こんにちは、はこんにちはですよ。意味何って、意味わからないですけど」 『ほら見い、ボケボケやがな。やっぱり君がボケで僕がツッコミやな』 「あー、なんか納得いかんけどええですわ。こんにちはの意味、教えてくださいよ」 『ええで、教えたろ。こんにちは言うのんはやな、もともと、こんにちはお日柄もよく、とか、こんにちはご機嫌いかがでしょう、て感じで昼間に会った人に挨拶する会話の冒頭部分なんやわ』 「なるほど。こんにちってのは今日、と言う意味ですか。そしたらこんばんはのこんばんって言うのは……」 『せや。今晩のことやがな』 「それで、重要な後半部分を端折って挨拶に変えてると言うわけですか……」 『察しと思いやりを二親に生まれてきた日本人らしい奥ゆかしさやな。面倒くさいけど』 「しかしよく知ってますね。意外に博識で驚きです。なんでそんなこと知ってはるんですか」 『そら君、ウィキペディアやがなー』 「……むっちゃオンライン」 『まあそう言うことやで、君もしっかりインターネット活用しなはれや』 「それならオンラインもリモートも、最初からインターネットで調べてくださいよ、ほんまもう」 『いやいやなんでえな! そしたら君と漫才できへんやないかーい、ってもうやめさしてもらうわ、ってあっ!!』 「ど、どうしました? すごい音して、画面が上向いてますよ!」 『……いやー、いつもみたいにつっこみ入れてもたらモニター叩き落としてもうたわぁ』 「うわ、オンラインツッコミやん」
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