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まちがえたら♡
Trrrr…… Trrrr…… Trrrr……
プツ
あ、繋がった!
『もしも…』
「おい!斎藤くん?俺!山下だけど!何してんの!早く来てよ!」
『は…』
「住所わかってる!?もう一回携帯にメッセージで住所送るから早く来て!」
プッ。
「なにやってんだよ!」
ついつい悪態をつく。
もう一回打ち合わせしたいから時間を空けて欲しい、僕がそちらに伺いますからと言ったのは向こうなのに。
悪態をつきながら斎藤くんに送信すべく、この事務所のアドレスをフリック入力していく。
そう……しんっ、と。
いつもなら、折り返し電話がくるなり返信するなりあるのに、今日はレスポンスも遅い!
仕方ないからこちらから電話をかけてやる。
『もしもし!あの!』
「わかった?住所!」
『はい、住所はわかりましたけど』
「じゃあすぐ来て!」
はあ。
ロスだ。
とりあえず斎藤くんが来るまでは、違う案件を片付けておこう。
ドアチャイムが鳴り、やっと来た斎藤くんを招き入れるべく、玄関へと急ぐ。
遅い!
遅いよ!
自分でも少しドタドタ足音がうるさいが、今の心境では仕方ないだろ!
そんな気分の勢いでドアを開けると、見知らぬ細身の……誰?
ちょっと俺好みの顔。
「アンタ誰?」
「さっき僕のスマホに早く来いとお電話がありましたのでお伺いしました。ヤマシタ様というのはどなたでしょうか」
「山下は俺だけど」
怒りを抑えているような、少し吊り上がり気味の切れ長の目が、妙に艶があって色気がある。
鼻筋は通り小鼻は小さい。
口も小さくて、薄いながらもぷっくりと形のよい唇がサクランボのように紅い。
つい見とれていると、更にキッと鋭い眼光が俺を射貫く。
胸が熱くなってきて、心臓がバクバクと拍動を速めた。
「一応、僕はあなたを存じ上げないのですが、これ、僕の名刺です。サイトウタカヤと申します。お電話では一方的に切られましたし、万一本当に僕のことわかってる上でお電話されたのかもと思い、お伺いしたところです」
渡された名刺を見ると、有名な企業に勤めてる齋藤貴也という人物の名前。
俺の待ってる斎藤くんと漢字は少し違うが、読みは同じ。
それに、携帯番号が斎藤くんと同じ……いや、あれ?
あれ、俺、この番号を押したよな。
自分のスマホの履歴と名刺を交互に見る。
「申し訳ない!仕事相手の電話と間違えた。これ」
ジャケットの右ポケットから出した名刺を男性に握らせる。
彼に握らせた斎藤くんの名刺を覗き込みながら、彼の名刺を見比べてしまう。
やっぱり斎藤くんと数字が一つ違う。
言い訳とか、普段他人にさせない俺が、ここぞとばかりに言い訳を探す。
「ごめん!先週スマホを水没させて、新しいスマホにしたところだったんだ。コイツの番号を登録してなかったからいつも履歴からリダイヤルしててさ。今日は名刺から番号見ながらかけたんだが……番号を押し間違えて……る。ごめん!」
他人の言い訳を許さない俺は、この時ほど後悔したことはない。
他人に言い訳をさせる隙を与えるくらい、度量のある男性になろうと、この時決めた。
だから。
俺のことも、許してくれるだろうか。
この男性だけには、嫌われたくないと思う。
たぶん、この男性はノンケだろう。
俺みたくどっぷり男性が好みなヤツなんて、珍しいからな。
この男性の静かな怒り。
どうすれば許してもらえるんだろうか。
そんなことを考えていたら、プッと吹き出す声が聞こえてきた。
「まさかドラマみたいなことがあるなんて、ちょっと……すみません」
そう言って彼は大笑いを始めたかと思うと、どうにも止まらないのか腹を捩って涙を拭い、ヒーヒー言ってる。
この笑ってるかわいい顔に射貫かれた俺は、この奇跡的な繋がりに感謝して、絶対モノにしようと心に決めた。
《END》
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