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まちがえられたら♡
「もしも……」
『おい!サイトウくん?俺!ヤマシタだけど!何してんの!早く来てよ!』
「は?」
『住所わかってる?もう一回携帯にメッセージで住所送るから早く来て!』
ブツ……ツー、ツー、ツー……
僕のスマホが鳴って、出たらこんなやり取り。
相手は僕のことわかってる風だけど、僕は知らない。
というかこの人、間違い電話じゃないのかな。
相手は確かに僕のこと、サイトウくんって言ってたけど……どうなんだろう。
程なくしてさっきの番号からメッセージが届いた。
なんの説明もない、住所だけのメッセージ。
住所はここから近い。
スマホの番号なのにこれだけ近い住所とか、やっぱり知ってる人なのかな。
もう一回電話して、ヤマシタさんという方に確認したほうがいいのかな。
ぐるぐる考えてると、また電話がかかってきた。
「もしもし!あの!」
『わかった?住所!』
「はい、住所はわかりましたけど、あの……」
『じゃあスグ来て!』
再度、ブツ切りされる電話。
全然話を聞いて貰えない。
これじゃあ、もう一回電話しても早く来いと言われるだけで、埒が明かないのだろう。
それに心地よいバリトンが、どんな人物から発せられたのか、興味もある。
住所をもう一度確認して、マップを見る。
溜め息を一つ、ダイニングの椅子に掛けていたジャケットの内ポケットの名刺入れを確認し、それを羽織って鍵を握り、自宅の玄関を出た。
「アンタ誰?」
ほらね。
僕のこと知らないんじゃないか。
着いた先は、セキュリティなんて皆無の安そうな二階建てアパートの二階。
かろうじて会社の名前だろうか、アルファベットで何か書いてあるプレートがドアに貼ってある。
部屋の号数の下には《山下》と癖のある字でマジックで貼ってある。
インターホンを鳴らすと、奥からドタバタと勢いのある足音が聞こえるし。
挙句、その勢いのままドアが開け放たれて、出てきた男性から、さっきの一言。
あれだけ高飛車な電話をされて、やって来た僕にその一言だぞ。
ムッとしてもしょうがないだろ?
「さっき僕のスマホに早く来いとお電話がありましたのでお伺いしました。ヤマシタ様というのはどなたでしょうか」
「ヤマシタは俺だけど」
僕と会話してるその人こそが、ヤマシタという人物らしい。
確かにさっきの電話の声だ。
「一応、僕はあなたを存じ上げないのですが、これ、僕の名刺です。齋藤貴也と申します。お電話では一方的に切られましたし、万一本当に僕のことわかってる上でお電話されたのかもと思い、お伺いしたところです」
相手は僕の名刺をまじまじと見て、次に僕の顔を凝視する。
段々とほんのり顔が赤くなるヤマシタという人物。
間違いに気づいたんだろう。
今更遅い!
「申し訳ない!仕事相手の電話と間違えた。これ」
ヤマシタさんのジャケットの右ポケットから出てきた少しよれた名刺。
そこには企業名の下に、《斎藤和典》という名前があり、携帯番号に僕と番号が一つ違う数字の羅列が印字されていた。
「ごめん!先週スマホを水没させて、新しいスマホにしたところだったんだ。コイツの番号を登録してなかったからいつも履歴からリダイヤルしててさ。今日は名刺から番号見ながらかけたんだが……番号を押し間違えて……る。ごめん!」
僕に渡した名刺を覗き込み、僕の名刺と見比べてるヤマシタさん。
僕よりかなり背が高くてカッコイイ。
玄関のドアを開けた格好のまま固まってる。
自分の間違いに気づき、かなり動揺して狼狽えている。
そんな彼が叱られた大型犬のように、項垂れた耳と力なく振られるしっぽが見える気がしてつい頬が緩んだ。
「まさかドラマみたいなことがあるなんて、ちょっと……すみません」
そう言って僕は腹が捩れるのに任せて大笑いした。
そのちょうど一年後。
まさか僕と山下さんが恋人同士になるなんて、誰が想像する?
《END》
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