#15 スマートフォンの束縛

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#15 スマートフォンの束縛

「はぁ~……」  部室に入るなり、鯨尾透哉(くじらお とうや)が大きなため息をついた。 「どうしたんだ? 部室に来るなり。透哉にしては随分と元気がないじゃないか」  鷹崎真矢(たかさき しんや)は、読んでいた本から透哉に視線を移し、珍しいものを見た。という表情を浮かべた。 「いや~、友達にカラオケ誘われたんだけど、どうも気分が乗らないんだ。一度断ったんだが『歌わなくてもいいから、来てくれ』って結構しつこくてな……」 「歌わないなら、カラオケに行く意味もないだろう。どうしてそこまでして透哉に来て欲しいんだ?」 「アレだよ。女が来るんだよ。多分」 「女子が?」 「そう。大方『鯨尾も来るから』って誘ったんだよ。――全く、人を餌にして女を釣るなんて勘弁してほしいぜ」 「その気が無いなら、キッパリ断ればいいじゃないか」 「それがな……。レポート手伝って貰うとか、普段何かと世話になっているから断り辛いんだよ……」  そこまで言うと、透哉は漸くソファーに腰を下した。ソファー前の応接机の上に置かれるスマートフォン。 「はぁ~。スマホが首輪みたいだぜ。これがある限り、何処へも逃げられねぇ……」  真矢が読んでいた雑誌を置き、自身の机からソファーへ移る。透哉の対面に座り、いつになく真剣な表情で向かい合う。 「カラオケの誘いだけで、随分と参っているじゃないか」 「誘いのメッセージだけじゃないぜ。SNSにソシャゲ、動画だってそうだ。最近スマホばっかり触っていることに気付いたんだよ。便利なのは間違いないけど、完全に生活の中心がスマホになっちまってる気がしてよ……。これって依存症ってやつなのかね……」  透哉の真剣な悩みを聞き、真矢は「ふむ……」と顎に指を当てて考えを巡らす。 「僕は詳しくないから、ハッキリとは言えないけど……」と前置きし、自身の考えを透哉に伝える。 「依存症というものには程度があると思う。軽度から重度、といった表現の仕方かな。依存症だとしても透哉は軽度じゃないか? だって講義を受けている間やバイト中、この部室でテレビゲームをしている時、何より僕と話をしている時は一切スマホを触らないだろ」  透哉の目を見て、真矢がそっと微笑む。 「だからそんな心配するような依存症ではないと思う」  その言葉を聞いて、透哉は少しホッとしたように強張った顔を緩めた。 「初めてスマホを使った時は『世界が変わった』と思うくらい嬉しかったんだけどな……。使っていると、存外面倒が多い」 「初めの(きら)めきってのはあるからな。最初はキラキラして見えるものさ。とはいえ、スマホは便利なモノだから、使えるに越したことはない」 「どうしたもんかねぇ……」 「少し距離を置いてみたらどうだ?」 「と、言うと?」 「簡単なことさ。スマホを触らない時間を増やすんだ」  透哉が首を傾げる。 「――どうやって?」 「何も難しいことじゃない。鞄に入れたまま取り出さない。『家に帰って一時間』とか、自分なりのルールを決めて、スマホに触らない、視界にも入れない」 「そんなこと出来る……のか?」 「出来るさ。メッセージの返信だって、一時間や二時間遅れたって、大して問題にならないモノが殆どだろう?」 「まぁ……そうかもな」 「SNSやソシャゲだって、離れても存外平気なものさ」 「うーん……」  暫く考えこみ、それから透哉は顔を上げた。 「わかった。さっそくやってみる……とりあえず、今日のカラオケは断りのメッセージ送って、あとはスマホ見てなかったことにしてやり過す」  手早くメッセージを送り、鞄にスマートフォンを収めた。
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