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異世界に迷い込みました
剣と魔法が世界の中心たる異世界。そんな場所に突然転移した、ある女講師の物語。
「此処は何処かしら?」
私は確か、塾の講師を終えて最寄り駅からの帰宅途中であった筈だ。なのに、何故か森のど真ん中に居る。そう言えば足元に変な模様が描かれていた様な。
「兎に角、人が居そうな場所迄移動しますか」
手提げ鞄に付けていたキーホルダー型の方位磁石を見て方角を確認して、東に向かった。
幸いなのか、夜道ではなく木漏れ日が差し込んで足元は見えている。塾を出たのは夜遅かったのに、太陽が上っている。
長い髪が草木に引っ掛からない様に後ろで纏め上げてポニーテールにした。何時ぶりだろうか、スポーツをする時位でしかやらなかったな。
就職した後は運動をする機会がめっきりと減り、元同級生とは愚痴の言い合いをして酒を飲むか、ストレス解消にカラオケに行くかしかしていない。
趣味もインドアな為に、体型維持を心がけて脂肪の付きにくい食生活とストレッチだけで、ランニング等の身体を動かす事はやっていない。
数十分は歩いただろうか。舗装されていない道を歩くのがこんなに辛いとは。休憩を取りたいが、腰を下ろすには向かない地面を見て、後少しだけ歩こうと決意する。
「やっと森を抜けられた」
森を抜けると、遠くに街見えた。ただし、現代日本のビルの街ではなく、中世ヨーロッパの古い街並みだが。
「もしかしなくても、此処は日本じゃないみたいね」
さっきから視ない様にしていたが、草原の此処彼処にプルプルと震えるバランスボールより小さな半透明の何かが蠢いていた。
「これって、所謂スライムよね?」
誰かが答えてくれる筈もなく、さりとていきなり襲って来る訳でもないので、無視しながら街を目指す。
森に足を運ぶ人は居なかったので、街の入り口に辿り着くまで誰とも遇わなかったが、門番らしき人を視て、もしかして異世界かもしれないと思い始めていた。
鉄の兜に鎧、手には長い槍を持ち、私に不信感を抱いた目を向けた男性が独り。
「こんにちは。言葉は通じますか?」
「見慣れない服装で森の方から来たみたいだが、良くそんな軽装で無事にいられたな」
言葉が通じた!? けれど相手は日本語を喋っている風には見えない。私の耳に翻訳されて聴こえている感じがする。
「この街の名前は何て言うのですか?」
「知らないで此処まで来たのか? この街は子爵様が納めている街、セグマロイだ」
貴族階級が有るし街の名前は聞いた事もない。異世界に転移した可能性が濃厚だ。私、非力で教える事しか取り柄が無いのに、大丈夫なのだろうか。
そもそも、異世界転移させるなら私なんかじゃなくて、運動神経抜群なスポーツ選手とかが良かったんじゃなかろうか?
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