2年二学期 期末試験

1/1
前へ
/19ページ
次へ

2年二学期 期末試験

「もはや制服に着替えんのダルくない?終業式終わったら、また体操着に着替えんでしょ、俺ら」 「つか、教室に行くこと自体がダルいね。また体育館に行くんだよ、俺ら」 「それな」 「明日からは家と体育館の往復だし」 「むしろ体操着で体育館に住むのが最適解じゃね?俺たち」 「ごめん。それが俺の今の人生の全てと思いたくはない」 「体育館。バスケ。体操着」 「今の三単語に笑う要素(ゼロ)なのに、めちゃ笑える」 「泣けるわ!」 「平成最後の夏休みだよ!もう俺ら固い守りを誇ってないでDT捨てようよ!」 「今の聞いてて、途中までマジでバスケの戦略の話だと思ってた」 「攻めてこ~!って対戦相手がいないよっ!」 「そんなこと言ってるうちに平成最後のクリスマス、平成最後のバレンタイン、そしてゴールデンウィーク、新しい時代が――やって来る」 「新しい年号、何になるかな」 「新しい年号を語ってるヒマは俺たちにねえ!平成をDTのまま終わらせていいのか~っ!」  朝練終わって体操着から制服に着替えて体育館から(ビー)(フォー)と――説明しよう!B4とは2年1組のバスケ部4人が「俺たちB4じゃね?」って今となっては俺は言ってないと4人全員が全否定するが、俺以外のヤツが言い出して(マジで俺じゃない)「バスケ部4」じゃなくて「バカ4」でしょと女子からツッコミの集中砲火を浴び、2年1組の担任にしてバスケ部の顧問・鹿尾しかお先生までがB4のリーダーと呼ばれて、とばっちりくらってるとゆ~。先生入れんならB5じゃねえ?と思わないでもない……――教室へ歩いて行く途中、一学期の期末試験の総合順位が廊下に張り出されてた。え。晴はる、一番じゃない…俺は立ち止まってしまう。晴、1年の一学期の中間試験からずっと一番で、あ、あの時、おもしろかったな。1年の時、中間試験の順位を見て 「一番だ!一番だ!」  って俺が、一番に晴の名前見て、テンション上がっちゃって、ぴょんぴょん飛びはねてたら、 「君が宇賀(うが)か?」  ってメガネかけた、いかにもガリ勉っぽいのが来て、 「このリベンジは期末試験で必ずや果たしてみせる!」  って一方的に()()()()()()宣言して去って行って、晴が大笑いして、晴が俺を「宇賀」と呼んで、俺が晴を「今宮(いまみや)」と呼ぶのが俺たちの間で瞬間爆発的大ブームになった。それからずっと一番だった晴が…… 「ごめん。先行ってて」  俺が三人に言うと、 「忘れ物でもした?」  見当ちがいの質問が返って来る。そうだよな、こいつら期末の順位なんかキョーミもないもんな。 「ん」  苦笑して俺はテキトーな返事をした。三人もテキトーに手を振って先に行く。俺は順位の先を見る。宇賀宇賀宇賀宇賀宇賀宇賀宇賀…あ、俺、125番。晴に見捨てられても勉強がんばったもんっ。中間が128番でヤバかったけど、なんとか120番台はキープした。でも1年の学期末が122番で、2年生になったら110番台にのせる!って言ってたから、晴に。それより順位が落ちてるってだけで気持ち的にはかなりオチてるんだけど。宇賀宇賀宇賀宇賀宇賀…晴が俺より下の成績なわけないだろって思いながら、ざわざわヤなカンジが全身をぐるぐるして――最下位まで見ても晴の名前はなかった。  な~んだ。俺は一番に戻って順位を見直す。宇賀宇賀宇賀宇賀宇賀宇賀宇賀宇賀宇賀宇賀宇賀宇賀……見直しても晴の名前はなくて俺は安心した。な~んだ。何かのまちがいで晴の名前、抜けちゃってるだけか。  これって誰に言えばいいんだろう。晴の名前が順位表から抜けてるって。やっぱ先生か。先生が作ってんだもんな。先生って、どの先生に言えばいいんだろ。俺は廊下を歩いて行く。あいつ、自分で言うかな。言わないよな。俺が言うのってヘンかな。俺が言ったら、あいつ、キレるかな。でも、俺が言ったってわかんなきゃいいか。あいつの前で先生に言うわけじゃないんだから、俺が言ったのなんてわかんないよな。あいつ、順位の表に自分の名前が貼り紙されたら目立っちゃって激怒すんだろうな。俺が言ったって気付いちゃうかな。  1組の教室に入りかけて、俺は出る。やっぱダメだ。こそこそすんのヤだ。晴に言おう。廊下を歩いて3組の教室に行く。開いてるドアからのぞきこむ。一学期は席、出席番号順だから、あいつは窓際の2番目の席。あ~、まだ来てないか。俺に勉強教える面倒がなかったら、ギリギリにチンタラ来るよな、あいつ。1組の教室前で張ってた方が捕まえられるか。戻ろうとすると、人にぶつかった。 「ごめん」  謝る。俺、ドアの前、ふさいじゃってた。ぶつかった相手はサイドを刈り上げてモヒカン気味な丸顔のメガネくん――枝野だった。お前、メガネも黒ブチメガネから、なんかオサレになってるな……まさかもう非DTということは!いやいや、ゲーヲタに限ってそんなことは 「宇賀?休み、かも?」 「え?」  聞き返すと枝野に腕を引っ張られる。あ、俺、ドアの所にいてジャマ。廊下の窓の方へ行く。 「宇賀、昨日も休みだったから今日も休みかも」 「夏カゼとか?」 「じゃね?」 「そっか。ありがとう。教えてくれて」 「ううん」 「じゃ」  枝野にちょっと頭下げて行きかけて、速攻戻る。 「休んでるっていつから?ひょっとして、あいつ期末受けてない?!」  期末受けらんなかったから名前なかったのか?! 「ううん。休んでるのは試験明けから。――今宮さ、キャラ変したよな」 「え…?」  何言われてるかわかんない。お前の方がよっぽどキャラ変してんだろっ。もうお前、非DTなのかっ?!彼女がいるのかっ?!枝野はオサレなメガネのフレームを人差し指で押し上げた。 「今宮、中坊ん時から背高かったからさ、目立ってた。けど、今宮、自分から行くカンジじゃなかったじゃん?いっつもだれかといっしょにいるカンジでさ。主張もしなかったし。一年ん時もさ、」  枝野は小さく笑った。 「俺の話にキョーミないのは見るからにわかってたけど、俺に話、合わせてたじゃん?」 「…ごめん」  俺は謝った。枝野はちいさく頭を横に振る。 「俺も高校入学早々、ぼっちにならずに済んで助かったしさ。新しいクラスの初手(しょて)なんてそんなもんじゃない?」  オトナだ、枝野。やっぱ非DTなのか! 「そーゆー今宮がさ、別のクラスのヤツのとこに自分から来てんのがさ、意外。クラス、別になったら、大体それまでじゃん?それってフツーだし」  枝野の言う通りだ。今までずっとそうだった。小学生ん時も。中学生ん時も。同じクラスで仲良くたって、クラスが別になれば、離れちゃうのは当たり前で。何、俺、別のクラスのヤツのこと、こんなに気にしてんだろ。期末試験の順位表に名前がなくたってどうだってよくね?チャイムが鳴った。枝野が廊下の、人が来る方を見る。 「やっぱ宇賀、休みっぽいね」 「ああ。うん。ありがとう、教えてくれて」 「ううん」  枝野は3組の教室に入って行く。俺は1組の教室に戻る。B4の所へ行く。ドラマの話、してる。俺は聞いてる。枝野が言ったのは本当のことだ。俺、グループの中であんま主張ってしない。グループには必ず中心になるヤツがいて、俺はそういうんじゃないから。教室に鹿尾先生が入って来て、B4は自分の席に散る。俺は先生の所へ行った。 「鹿尾先生、期末の順位表、晴の――宇賀の名前が抜けてんですけど」
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加