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遅刻する! 慌てて職場に走り込んだ。  ロッカーで着替えて名札をつけて、朝礼の列に並んだ。 「おはようございます、すみません、遅くなりました」 息を調えながら立つ。 「おはよう、今日は何があったの?目覚ましが止められた?電車が止まった?それとも家の鍵がみつからなかった?」 これまでに私が使った言い訳を並べたてたのは、(みさき)柊子(しゅうこ)、34才。 ここは大手のカーディーラー。 私の勤め先で、柊子(しゅうこ)はここの店長だ。 仕事はできる、背も高く、モデルばりのスレンダーなスタイルに小さな顔には、漆黒の前下がりのボブが似合う。 「も、申し訳ありません、以後気をつけます」 「そうね、そろそろ責任ある大人の行動を身につけてほしいところね」 ふう、とため息混じりにバインダーを見て朝礼を続ける。 「では、続けます。来月の3日から始まる新車のキャンペーンですが、これには当社もとても力を入れています。目標は…」 柊子(しゅうこ)の説明が続く。 「いや、ちょっとキツイよな、この数字は」 「達成可能な数字だとやる気も出るんだけど」 あちこちから、営業マンのひそひそ話が聞こえる。 「そこ!何か言いたいことがありますか?」 柊子(しゅうこ)の声が飛んできた。 「あ、いえ、特には」 「はい、えと、頑張ります、はい」 「…では、次に、定期点検についてお客様からのクレームが届いています。内容はここに記載しておいたので、全員で目を通して確認しておくように。 それから、キャンペーンの後半では、本社の杉野(すぎの)部長が経過を確認しに来られる予定なので…」 「なぁ、やっぱりあの噂、ホントかな?」 「噂って、あれ?」 「そう、店長と部長の…」 「ホントらしいよ、だから店長は異例の抜擢だったとか」 店長(しゅうこ)杉野(すぎの)部長と不倫の関係にあるらしい。 だからあの若さで、ここの店長になったとの噂があった。
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