あの人

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あの人

その時、急に外から光が差してきたの。おじいさんがカーテンをめくったんだわ。そして私を見下ろして言った「ここにいたのかい?この部屋は埃っぽいからさっさと出よう」って。 私は今まで何にも聞こえなかった世界から急に自分がいる元の世界に引っ張られたような感覚になったわ。私は音を聞くことをただ忘れていたのかもしれない。おじいさんが優しそうに私を見つめるその奥からはラジオで流れているクラシックや外で一生懸命鳴くセミの音がうるさいくらいに聞こえてきたわ。 おばさんの大きな鼻歌は聞こえないからもう帰ったようね。
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