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こいつ
私はただ呆然とおじいさんを見ていたの。
そしたらおじいさんは部屋に入ってきて私の隣にそっと並んだわ。そしてあの人を見つめながら言った。「こいつはもう使っていないんだよ。毎日おしゃれな服を着させて店の外に立ってもらっていたんだが…もう傷も多いし若い男のお客さんはうちの店にほとんど来ないからね。こいつには引退してもらったんだよ。」おじいさんはあの人を見つめたまま淡々と語った。「何十年もの間、毎朝こいつを外に出して「今日も一日頑張ろうな」って話しかけるのが日課になっていたんだ。こいつには顔がないし、言葉もしゃべらないけどすごく気に入っていたんだよ。」
私はまだあの人の足を触っていたことに気づいたわ。
触れている部分はもう冷たくなかった…
そして、彼の白くて硬いプラスチックの脚からそっと触れていた手を戻した。
もう人ではない、
服をきれいに見せてくれる人のカタチをした物である彼。
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