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「ーー紗知先輩......!」
「......な......に?」
私たちの会話を聞いていた夏樹くんは、何故か目を輝かせている。嫌な予感がーー。
「俺も行って良いですか?」
「それはーー」
「いいよ!行こう。黒瀬くんの歓迎会も兼ねて行こう!」
「......っ」
断ろうと思ったのに、春奈が承諾する方が早かった。
「ありがとうございます!」
さらに嬉しそうになった夏樹くんに、やっぱり来ないでとは口に出来なかった。ーー夏樹くんが来るなら、愚痴が言えないじゃないか......。
それから、先に3人を送り出して、残りの仕事を片づける。とりあえず、簡単なものからーー。
来週の予約のお客様の資料をある程度準備して、いくつか夏樹くん用に分けておく。
30分ほど、いつもの数倍のスピードで作業をして、準備を終わらせた。
「お疲れ様でーす」
「柏木が残業なんて珍しいな?」
棒読みで、お決まりの挨拶をして帰ろうとしたのに、少し笑っている部長に呼び止められる。
「部長......わかってて言ってます?」
「あぁ、わかってて言ってる」
突然、なんの準備もなしに私を指導係に指名したこの人は確信犯だ。
「部長のせいですからね!なつ......黒瀬くんのやる気が無くなっても知らないですからね!」
部長の前でも、“夏樹くん”って言いそうになり、慌てて言い直す。
「あいつなら大丈夫だ。お前に着いていくよ」
部長が、どうしてそう思ったのかは分からないけど、今の私には荷が重いように感じた。
「......お疲れ様です......」
どう返事をしていいのか分からなかった私は、そう言って、踵を返した。
残っている人達にも挨拶をして、みんなが待っているお店に向かう。歩いて5分ーー。職場の近くのオシャレな居酒屋で、料理もお酒も美味しい。仕事終わりの時には、いつも大体ここだ。
そしてーー実は穴場だったりする。あまり目立たない看板が置いてあり、そこから地下に続く階段を降りて、木の扉を開けた。
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