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きっと、この男も紗知先輩のことが好きなのだろう。
もちろん、譲るつもりは無いけれどーー。
「じゃ、失礼します」
紗知先輩が寝ているのに、ここで言い争う訳にも行かないので、俺は横をすり抜けて外に出た。
夜の冷たい風が、ワイシャツの中を通り抜ける。
紗知先輩も寒かったのか、俺の腕の中でぎゅっと縮こまった気がした。
無意識なのか、俺の胸に擦り寄ってくる紗知先輩。
自然と胸の鼓動が速くなる。
さっきの出来事は忘れて、怒りなど一瞬で消え去った。
「......っ!」
ほんとにーー、可愛すぎる......!
本人が寝ていて無意識なのが、タチ悪い。
でも俺は、この収まる気配のないドキドキを、紗知先輩に聞かれなくて良かったことにホッとしていた。これ以上、そとにいるのは寒くなりそうなので、直ぐにタクシーを捕まえる。
抱えたまま乗り込むわけにもいかず、紗知先輩を先に椅子に座らせて、俺は反対側から乗り込んだ。
そういえば、紗知先輩の家知らないや......北見さんに聞こうにも、聞く前に帰っちゃったしーー。
「紗知先輩?」
「......スゥー......」
一応呼びかけてみるも、気持ちよさそうな寝息しか聞こえない。
しょうがない、かぁ......。
俺は運転手さんに、自分の家の住所を伝えた。シーンとした車内で、俺は左隣に座っている紗知先輩を見る。
だんだんと窓の方に身体が傾いていく。寝顔、やっぱり可愛い......。自然と笑みが漏れた。
「ーーおっと......」
ガタンっと少し揺れたところで、紗知先輩の身体が一気に傾く。窓にぶつかる前に、俺は自分の方へ引き寄せた。
俺の肩に頭を預ける形になった紗知先輩。
「う......ん......」
起こしちゃった?
そーっと覗き込んでみると、どうやら寝息だったらしい。
「ふぅ......」
良かった......と安堵の息を漏らす。
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