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俺が、必死で冷静で居ようとしている間に、いつの間にか飲み終えたらしいコップを渡され、俺は戻しに行こうと立ち上がった。
グイっとワイシャツの袖を引っ張られる。
ーーん?
振り向いてみると紗知先輩が袖を持っていた。
「......行かないで」
「うっ......」
潤んだ瞳で、さらに上目遣いで言われた。酔っぱらいを襲うつもりは微塵も無いーー。
こんな事を言われて、理性を保っている俺を褒めて欲しいくらいだ。
「居るから大丈夫ですよ。寝てください」
これ以上は、ヤバいーー。
なのに、紗知先輩はさらに煽るような言葉を言った。
「ぎゅー......、してくれる?」
酔ってる......酔ってるよね、これ......。
「......っ!」
「してくれないの......?」
今にも泣きそうな顔で言われた。
そんな顔......っ。小動物みたいに可愛い仕草のおねだりだ。
可愛い、好きだと叫びたい気持ちを抑えながら、別の言葉を出す。
「はぁーー、いったい、どこで覚えてきたんですか?」
叫ばないからと言って、このまま放っておくわけにはいかない。
今にも泣きそうな、悲しそうな顔をしている紗知先輩を放っておくなんて、俺には出来なかった。
俺の中で、今にも崩れそうにぐらぐらと揺れている理性をつなぎ止めながら、紗知先輩を抱き寄せた。
「はぁ......あんしん、する......」
そう言った紗知先輩は、俺の背中に腕を回してさらに密着してきた。もう、本当に勘弁してーー。
「紗知先輩、俺にしかこういう事言っちゃダメですよ?」
俺は、腕の中に収まっている紗知先輩の耳元でそう言った。
「もう寝な?......おやすみ」
その言葉が聞こえたのか、ゆっくり目を閉じて気持ちの良さそうな寝息を立て始めた。そんな紗知先輩を布団の中に押し込む。
そして、俺は離れようとしたのに、無意識の紗知先輩にシャツの袖を掴まれた。
「......っ!」
どうやら、離れるわけには行かないらしいーー。紗知先輩は、俺を振り回す天才だ。
安心しきっている紗知先輩の寝顔を見ながら、そっとため息をついた。
「ここまで俺を振り回すんだから、覚悟しろよ?
絶対に、俺の事好きにさせるから......」
俺はそう言って、寝ている紗知先輩の手の甲に、そっとキスを落とした。
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