2.溺愛宣言

14/14
前へ
/116ページ
次へ
俺が、必死で冷静で居ようとしている間に、いつの間にか飲み終えたらしいコップを渡され、俺は戻しに行こうと立ち上がった。 グイっとワイシャツの袖を引っ張られる。 ーーん? 振り向いてみると紗知先輩が袖を持っていた。 「......行かないで」 「うっ......」 潤んだ瞳で、さらに上目遣いで言われた。酔っぱらいを襲うつもりは微塵も無いーー。 こんな事を言われて、理性を保っている俺を褒めて欲しいくらいだ。 「居るから大丈夫ですよ。寝てください」 これ以上は、ヤバいーー。 なのに、紗知先輩はさらに煽るような言葉を言った。 「ぎゅー......、してくれる?」 酔ってる......酔ってるよね、これ......。 「......っ!」 「してくれないの......?」 今にも泣きそうな顔で言われた。 そんな顔......っ。小動物みたいに可愛い仕草のおねだりだ。 可愛い、好きだと叫びたい気持ちを抑えながら、別の言葉を出す。 「はぁーー、いったい、どこで覚えてきたんですか?」 叫ばないからと言って、このまま放っておくわけにはいかない。 今にも泣きそうな、悲しそうな顔をしている紗知先輩を放っておくなんて、俺には出来なかった。 俺の中で、今にも崩れそうにぐらぐらと揺れている理性をつなぎ止めながら、紗知先輩を抱き寄せた。 「はぁ......あんしん、する......」 そう言った紗知先輩は、俺の背中に腕を回してさらに密着してきた。もう、本当に勘弁してーー。 「紗知先輩、俺にしかこういう事言っちゃダメですよ?」 俺は、腕の中に収まっている紗知先輩の耳元でそう言った。 「もう寝な?......おやすみ」 その言葉が聞こえたのか、ゆっくり目を閉じて気持ちの良さそうな寝息を立て始めた。そんな紗知先輩を布団の中に押し込む。 そして、俺は離れようとしたのに、無意識の紗知先輩にシャツの袖を掴まれた。 「......っ!」 どうやら、離れるわけには行かないらしいーー。紗知先輩は、俺を振り回す天才だ。 安心しきっている紗知先輩の寝顔を見ながら、そっとため息をついた。 「ここまで俺を振り回すんだから、覚悟しろよ? 絶対に、俺の事好きにさせるから......」 俺はそう言って、寝ている紗知先輩の手の甲に、そっとキスを落とした。
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!

434人が本棚に入れています
本棚に追加