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「あっ......」
そこまで言われて、初めて気づく。そうだよね、夏樹くんに限って、襲うなんて事はないと思うけれど、なんとも思っていない女の子の、一人暮らしの部屋に入るわけにはいかないよね。
この時、私が夏樹くんの部屋に泊めてもらった事は頭から抜けていた。
「す、すぐ準備してくるから!」
「ゆっくりでいいですよ~」
バタバタと部屋に駆け込むとき、夏樹くんの声が閉まるドアの隙間から聞こえた。ゆっくりでいいと言われたって、長く待たせるわけにはいかない。
急いでシャワーを浴びて、着替える。コーディネートを考えている時間は無いので、淡い水色の膝丈ワンピースにカーディガンを羽織った。軽くメイクをして、髪を巻く時間は無いのでポニーテールに結く。
「お待たせしましたっ!!」
外に出た時には、30分以上経っていた。
「全然待ってませんよ。ーー紗知先輩、可愛すぎます......っ!」
「お世辞でも嬉しいよ、ありがとう」
適当にあった服を着ただけだ。特別お洒落した訳でもない。
「お世辞じゃないんだけど......」
そう呟いた夏樹くんの声は小さくて、よく聞き取れなかった。
「えっ?」
「いえ!なんでもないです。紗知先輩、どこ行きましょうか?」
聞き返しても、教えてくれることは無かった。
とりあえず、どこに行くにも電車に乗らないと行けないので駅に向かって歩き始める。というよりも、行きたいところあるから誘ったわけじゃなかったのね。
「行きたいところあったから、誘ったんじゃなかったの?」
「紗知先輩と行けるなら、どこでもいいです!」
「......あ、そう」
行きたいところがないから、出かけるのを辞めるというのは夏樹くんの選択肢には無いらしい。
私もここまで準備したのに、やっぱり帰るは無いと思ったけれど......、せっかくなら、どこか行きたい。
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