8.恋の宿敵

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「ーー先輩、紗知先輩?」 「え?」 呼ばれていたことに、気づかなかった。 夏樹くんが、放心状態になっていた私を覗き込んでいる。 「紗知先輩、俺は離れたく無いですけど、仕方ないので行ってきます」 「うん?」 私の両肩を持って、夏樹くんが熱弁しはじめた。 突然の事で、なんのことを言っているのか着いていけない。 「天使すぎるので、俺は誰にも渡したくないです。だから、変な人について行っちゃダメですよ?他の男になびかないでくださいね?」 「わかった?」 夏樹くんは何を言ってるのだろう?いくら私でも、変な人について行かないし、他の人になびく予定なんかない。夏樹くんが私になびいて欲しいくらいだ。 ただ、このタイミングで気持ちを伝えても、これから離れ離れになるのだから、上手くいかないに決まっている。 「はぁ......、紗知先輩は、仕事の事とか、他の人のことは鋭いのに、自分の事は鈍感なんだから」 「うーんと......?」 「とにかく、俺は向こうで頑張るんで、紗知先輩もこっちで頑張ってくださいね!」 それは、私のセリフだ。送り出される人に言われることじゃない。 それで、嫌だと言った所でこの決定は覆らない。何を言ったって、私には応援して送り出すしか選択肢がないのだから。 「ーーうん、夏樹くんも頑張ってね」 寂しくなるけれど、私にはこういうしか無かった。 「はぁ......、可愛すぎるっ!!」 ただ、応援しただけなのに、どうして? いつの間にか、私は夏樹くんに抱きしめられていた。 それだけで、私は嬉しくなってしまう。恥ずかしさもあるけれど、離れ難い、寂しい気持ちが紛れる気がした。
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