8.恋の宿敵

3/14

417人が本棚に入れています
本棚に追加
/116ページ
*** 夏樹くんが本社に異動して1週間。早くも私は寂しくなっていた。 今日予約のお客様の対応を全て終えて、今は明日の準備をしている。 「はぁ......」 夏樹くんが居る最後の日、突然の事なので、送別会も出来ず、終業後にお花を渡しただけだった。 たった約3ヶ月だけなのに、もっと一緒に居たような気がする。 夏樹くんは、今までの人と全然違った。初めは指導なんてしたくないと思っていたけれど、今では夏樹くんの指導に付けて、良かったと思っている。 そして、最後は笑顔で送り出そうと思っていたのに、夏樹くんの言葉で私は大号泣した。 「紗知先輩、俺、紗知先輩に教えて貰えて良かったです!すごく勉強になったし、仕事の楽しさを教えて貰えました。ありがとうございました」 その言葉を聞いた時に、指導を引き受けて良かったなと思ったのだ。今までの人と全く違う言葉に、自然と涙が溢れてきた。 「こちらこそ、夏樹くんが来てくれて良かった。ありがとう」 私はそう言って、泣きながら夏樹くんを送り出したのだ。 それ以降、また1人での仕事に戻っていた。 思い返していると、私のため息を聞いた胡桃がくるっとこっちを振り向いた。 「紗知先輩、ため息つくと幸せ逃げちゃいますよ~」 そう、冗談交じりに言ってきた。そして、春奈も......。 「紗知、黒瀬くんが居なくなって寂しいんでしょ?珍しく泣いてたもんね~」 「そ、そんなことーー」 無いとは言えなかった。 その通りだ。夏樹くんが居るのが当たり前になってしまって、仕事を任せようと声をかけそうになった。 それに、一人で帰る帰り道は長く感じる。 それくらい、夏樹くんの存在が私の中で大きくなっていた。 「よし、今日は気分転換しよう。2人とも今日飲み行こう!」
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!

417人が本棚に入れています
本棚に追加