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「良いの。りょうくんの好物なんだから。あんたは、ダイエットしてるんじゃなかったの?」
「まさか、彼氏でも出来たのか?」
俺は驚いて、すねる妹を凝視する。
「もう良いの。別れたから関係ない」
ふてくされた顔の妹に申し訳ないが、俺は内心安堵していた。父の顔も心なしか、ほっとしているように見える。
「ねぇ、そういえばお兄ちゃんに言ったの? 来年、私は寮に入るって」
「あっ、そう言えば、言ってなかったわね。でも、もう知ってるんじゃないのかしら」
「嘘だろう! 知らなかった」
俺は思わず身を乗り出す。まさか妹がこんなにも早く、家を出るだなんて予想外だった。
「お兄ちゃん驚くんじゃない。私のこと大好きだもんね」
悪戯な笑みを浮かべた妹は、俺の方を見る。妹が言うとおり、俺は驚いていた。
「でも、お兄ちゃんだって、大学に入るときに家を出た身だから、人のこと言えないもんね」
「……そうね。まさか、あんたもお兄ちゃんと同じ学校に入るとは思わなかったけど」
母はそう言って、何処か思い悩むような顔をする。
「えっ、俺と同じ大学なんだ。何でだよ?」
俺が問うと、妹は箸を動かしながら「私は最初から決めてたから、今更反対しないでよね」と言った。
俺の通っていた大学は、都内の教育科のある大学だ。小学校の教師になりたいと思っていた俺は、そこの大学に入学していた。
「父さんがよく良いって、言ったな」
俺は唖然とした。一人娘が都内で一人暮らし。それを本当に、父は許可したのか。
「りょうと同じ道に進みたいんだろう。それなら反対はできない」
グラスのビールを煽り、父が言う。その発言に俺は、言葉を失う。
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