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「そうだよ。お兄ちゃんの意思は私が引き継ぐんだから」
照れているのか、妹は顔を背ける。母は涙ぐんでいた。鼻をすする音が聞こえる。俺も鼻をすすった。
「お兄ちゃん。今年は帰ってきてるのかな。もしかしたら、遠慮して帰ってきてないかもね」
俺は力なくうなだれる。本当だったら、帰りたかった。でも、こちらの世界でも自粛されていたのだ。年に二回ほどしか帰れないにもかかわらず、傍に行くことが出来ないのは辛かった。
「幽霊でも、感染症にかかるのかしら。でも、みんなが集まらないようにって、案外遠慮してるかもしれないわね」
母は袖で涙を拭いながら、そう言った。
「そうだよ。だから、今年はオンラインにした。でも、どっちにしたって、分からないだろうけど」
傍にいても、いなくても、家族には俺の姿は見えることはない。
「それとも、もう成仏しちゃってるかもね。輪廻転生して、どっかの家に生まれ変わってるかもしれないし。だって――」
いつも気丈な妹が、少しだけ眉を下げて続ける。
「車に引かれそうになった子供を助けて死んだんだよ。きっと、天国に行って、早々に輪廻転生してくださいって、言われてるかも」
静かな部屋の中で、母のすすり泣く声が響く。
妹の言った通り、俺は輪廻転生を勧められていた。死んだ理由が、道路に飛び出した子供をかばってということで、評価されたようだった。
死んでから三年が経ち、俺より後に死んだ人達の何人かは、すでに新しい人生を歩んでいる。
だけど、俺はまだこの場所に留まっていた。それは家族が心配ということもあるけれど、俺の踏ん切りがつかないというのもあった。
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