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俺はいつの間にか泣いていた。どうにも出来ないもどかしさに、ただ、家族を前にして泣くしかなかった。
「おい、やめろ」
ビール瓶をダンっと置かれる音に、母と妹、そして俺も顔を上げて父を見る。
「お前達は、りょうを何だと思っているんだ」
父はコップを強く握って、俯いていた。
「家族のことは気にするな、俺たちはちゃんとやっていける」
父の目が俺に向けられる。そこには仏壇に飾られた俺の写真があった。その写真を通して、俺は家族と向き合っていた。
「何があっても、俺が家族を守っていく。だから、お前は早く新しい人生を歩め」
皺が増え、瞼が重たげな父の目。歳を重ねたと分かるも、その目の力強さは衰えてはいないようだった。昔は何を考えてるか分からなくて、父を恐れていたこともある。でも今は、父の気持ちが真っ直ぐに、俺に伝わってきていた。
「そうね。お父さんの言うとおりよ」
母が俺の方を見る。
「りょうくん。早く新しく生まれ変わって、今度は長生きしてね」
母はそう言って、笑顔を浮かべた。
「そうだね。それに今度生まれ変わったら、もっと偏差値が高い所に入れるかもしれないしね」
最後まで憎まれ口を叩く妹に、俺はぎこちない笑みを作る。
「りょう、聞いてるんだろう」
俺は思わず身を乗り出す。父には自分の存在が分かるのかもしれない。そんな期待に、俺は父の次の言葉を待つ。
「お前が息子で良かったと思っている。だから自信を持って、次に進め」
父のきっぱりとした発言。その言葉に母も妹も頷く。その顔には寂しさもあったが、どこか納得しているようでもあった。
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