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俺はふいに思い出す。まだ生きていた頃から、悩みや相談事を口にしたときに、まずは母と妹が意見を交わし合い、俺や父がある意味蚊帳の外に出される。だけど、結局は父が最後に発した言葉が、決定打となっていたのだ。
口数は少なくとも、父の言うことは間違っていなかったし、その言葉に重みがあったように思う。それは口に出さずとも、母も妹も同じように感じていたはずだ。だからこそ、父を交えて悩みを口にしていたのだろう。
全員が俺を見ていた。俺は家族を順番に見た。
「俺もこの家族に産まれてきて良かった。今までありがとう」
俺は家族の顔を目に焼き付けてから、交信を断ち切った。
お彼岸ならば会えるかもと期待していただけに、早い別れに寂しさも込み上げる。それでも、父の決定に背を押され、後戻りは許されないように思えた。
最後の家族会議を終えて、俺は再生を待つ長い行列に着く。
次の家族が、今の家族より良いとは限らない。辛いことも苦しいことも、今世以上にあるかもしれない。それでも――父は良い息子だったと太鼓判を押してくれたのだ。
それならば、俺が生まれ変わっても、そう言って貰えるような人間になれば良いだけだ。
長いと思われていた行列が、あっという間に減っていき、気づけば目の前に大きな扉があった。
その巨大な扉が、「次は貴方の番です」と言わんがばかりに開かれる。零れるような白い光に包まれた先は、何があるのかも分からなかった。
「行ってきます」
俺はそう言って、扉へと一歩を踏み出した。
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