【本日の御予約】  小坪巴   様 ④

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 三時になって摩子さんが用意したのは、さも当然のように、氷たっぷりのアイスコーヒーだった。 「それじゃみちるちゃん、よろしくね」  頷いて、慎重にお盆を受け取る。背の高いグラスに並々と注がれたコーヒー。わずかな油断が大惨事を招きかねない組み合わせである。  細心の注意を払いながら階段に足を乗せると――「ああ、それとね」と追加で摩子さんの声がした。 「巴は一度スイッチが入るとどこまでも突っ走る奴だからさ。そのコーヒーを飲む間くらいは、多少強引にでも休ませてやってよ」  そんなことを言われて――正直、困った。  強引にって……。  そんなの、いままで一度だってできたことないのに。  それでもとは言いたくなかった。  だってこれは、摩子さんからあたしへの頼み事だから。  頼まれたことくらい頼まれた通りにこなす――そんなあたしを、摩子さんは褒めてくれたから。   「……頑張ってみます」  小さく頷いたあたしに、摩子さんは満足げに笑った。  二階に上がれば客室は目と鼻の先にある。  趣のある廊下は一歩進む毎に床板がきしっと音を立てる。いつもなら一切気にしないのだけれど――客室で小坪さんが仕事をしていると思うと、自然とつま先立ちになった。  ちなみに客室の入り口は世にも珍しい鍵付き(ふすま)になっているので、ノックをしても中に音が伝わりにくい。あたしは一つ深呼吸を挟んで、 「小坪さん。少しお邪魔しても良いですか?」 「――はいはーい。鍵は開いてんで」  やっぱり仕事中なんだろう。ややあって声が返ってきた。  可能な限り雑音を立てないように気を付けながら、そっと襖を開ける。  瞬間。  背筋がゾッとした。
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