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そうだ。小坪さんはそう言った。
でも……なんで知ってるの?
と、顔に書いてあったんだろう。しばらくあたしの顔を眺めて、摩子さんは笑顔を重ねた。
「なんだかんだ巴とは長い付き合いだからね、言いそうなことは大体検討が着くよ。特にあいつはわかりやすいしね」
わかりやすい――。
それは真っ直ぐとか、裏表がないとか、きっとそういう意味。
確かに小坪さんはそういう人、だと思う。
けれど……、なんだろう……?
何か引っかかる感じがした。
例えるならば、なにか忘れ物をしているような――けれど、それに気付くことができない、もどかしい感じ。
「せっかくの機会だから聞いてみたいんだけどさ。やればできるとか、信じれば叶うとか、こういう熱のある言葉を、二人はどう思う?」
「どうって。言葉通りじゃないんですか?」
と、答えてから気づく。
あたしの返答には、何も詰まっていないことに。
そんなつまらない回答をフォローするかのように、目の前にコーヒーカップが置かれた。
「俺は、なんていうか。正論って感じるかな」
「正論?」
つい訊いてしまう。
摩子さんにもカップを渡しながら、凛介は「うん」と頷いた。
「やらなきゃできないし、信じなきゃ叶わない。そんなの当たり前のことでしょ?
わざわざ言われるまでもないっていうか――わざわざ言われるせいで、やらないからできないんだ。信じていないから叶わないんだ。って、否定されてる気分になるんだよね。
それが……鬱陶しい、って言えばいいのかな。
例えば『勉強しないと将来苦労するぞ』とか。『練習が足りないからミスするんだ』とか。そういう正論ってさ、正しいからこそ、時々どうしようもなく腹が立つじゃない?
やればできるも、信じれば叶うも、それと一緒。言われなくてもわかってるからこそ、なんかムカつく。
俺はそんな風に感じる、かな」
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