【本日の御予約】  小坪巴   様 ⑥

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「言い訳……。なんか俺よりも否定的に聞こえますけど」  だろう、と摩子さんはあっさり同意した。  声に棘を含ませた切り返しは、あるいは凛介なりの些細な反撃だったのかもしれない。しかしそれさえあっけなく受け止められて――凛介は諦めたように、不機嫌な態度を崩した。 「それで? 今回はどういうなんですか?」  そう大したモノじゃないよ――と、愉快に笑う摩子さん。  この人にはひねくれ方に大小があるんだろうか……、なんて。至極どうでもいいことを考えつつ、あたしは次の言葉に耳を傾ける。 「やればできる。信じれば叶う。そういう熱のある言葉を吐き出す人間は、決まってに居るって事さ。  やって――できたから。  信じて――叶ったから。  ときに、熱のある言葉は生み出される。  なぜか。それはね。を誰かに伝えるのが、とても難しいからだよ。  考え方や感性が違う人間に、自分の思考を100%齟齬(そご)なく伝えるのは不可能だし、そもそも成功した理由を完璧に言語化すること自体、すでに至難の業だよね。  そういうときのとして。成功した側は、熱のある言葉で。  成功した理由はうまく伝えられないけど、やったらできました。信じたら叶いました。だからってね。  言ってしまえば、逃げの道具だよ。あるいは、その場しのぎの手段かな。少なくとも、私はそう思っているよ」
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