【本日の御予約】  小坪巴   様 ⑦

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「みちるっ!?」  けたたましい足音と、聞いたことのない激しい声を上げながら、凛介はあっという間にやってきた。 「大丈夫っ? どうした――――えっ、小坪さんっ!?」  放心するあたしと倒れた小坪さんの両方を瞳に映して、凛介の動きが固まる。  あたしは何の感覚もないまま、ただ凛介を眺めるしかなかった。  すると凛介はすぐに動き直して、小坪さんに手を伸ば――。 「――触っちゃダメっ」  ほとんど真っ白な思考の中で、なんとかそれだけを伝える。  を伝える余裕は……残念ながら無いけれど。 「えっ……? そ、それなら早く救急車を」 「」  そんな風に。  凛介の言葉を遮ったのは、遅れて現れた摩子さんだった。 「意味が無いって、そんなはず――……いえ、だったら何をすればいいか教えてくださいっ」  もとからよく気が回る凛介だ。  迅速に思考を切り替えて摩子さんに指示を仰ぐ。  その在り方を――ただただ凄いと思う。  こんな風になりたいと――切実に憧れる。  ……無性に。胸の奥底からが込み上がってきた。  たぶんこれが、とかとか、そう呼ばれている感情なんだろう……。 「うん。それじゃバケツいっぱいに氷水を用意してくれるかい」  返事より先に駆けて行った凛介を見送ることはせず、摩子さんの瞳はあたしへとスライドした。 「みちるちゃんはタオルをあるだけ持ってきて」  当然のようにあたしにも指示が出る。  摩子さんの声は不思議なまでに落ち着いていた。どころか、慣れている風さえある。でも、そのおかげであたしの世界に幾らかの色が戻った。 「――は、はいっ」  自分で考えなくていいのなら、身体はこんなに動くのに――。  ……なんて。後ろめたさを感じる。  もちろん胸にはさっきのだって残っている。それらから逃げるように、店中を駆け回ってタオルを搔き集めた。  視界を邪魔するほどに積み重なったタオルを抱えて客室に戻ると、一足先に凛介が帰っていた。脇のバケツには氷の割合の方が多いような氷水。 「……あたしにっ!」  あたしは動きを止めずに小坪さんに駆け寄った。  タオルと氷水。  これから何をすればいいのか想像できるくらいには、頭は冷えていた。
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