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今年のGWは五月一日から五連休。
みどりの日と連休初日の間に、平日が挟まった形になっている。
当然ながら、その間は大学も休み。
特に相談した訳じゃないけれど、あたしと凛介は『うらおもて』でアルバイトに勤しみながら連休を過ごす予定だ。
ちなみに『うらおもて』には客室が一部屋しかない。お客さんが宿泊する際は必然的に貸し切り状態となるので、これから五日間、あたしたちは小坪巴さん一人を〝おもてなし〟することになる。
「さて、と。そろそろ巴が来てもいい時間だね」
たっぷり時間をかけてミルクティーを飲み干した摩子さんが、エプロンを着けながら言う。
あたしも立ち上がって、改めて外に目を向ける。
天気は上々。連休中は晴れが続く予報だったはずだ。そのおかげか、店の前を観光客が右へ左へと流れていくのが見て取れた。
あたしとしてはこの一ヶ月で早々と見飽きてしまった風景だけれど――レトロな香りを残すこの城下町は、観光地としてそこそこ需要があるのだろう。
震災によって崩れた城も徐々に本来の形を取り戻しつつあるし、この先もっと観光客は増えるのかもしれない。
「ああそうだ。みちるちゃん、客室の冷房は点けてくれた?」
「はい。お昼を食べる前に。あと扇風機も出しておきました」
「うん。ありがとう」
話が終わってしまう前に、あたしは気になっていた事を訊くことにした。
「でも設定温度――あんなに下げて良かったんですか?」
なにせ摩子さんに頼まれた設定温度は、20℃。
五月に入って随分暖かくなったとはいえ、真夏でもそうそう設定しない低温だ。さらに扇風機の用意まで頼まれたとあって――あたしの聞き間違え、あるいは摩子さんの言い間違えだったんじゃないかと不安が拭えずにいたのだ。
「いいのいいの」
しかし摩子さんは、えらく軽い態度でしれっと言った。
「巴は何かとアツい女だからね、そのくらいで丁度いいんだよ」
「アツい女って……」
暑がりならわかるけれど、アツい女では意味合いが大きく違ってくる。少なくとも冷房を20℃に設定する理由としてはふさわしくない……と思う。
だからあたしは再び首を傾げることになったのだけれど――。
摩子さんはにやりと笑うだけで、それ以上なにも言ってくれなかった。
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