【本日の御予約】  小坪巴   様 ②

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「い――いらっしゃいませっ」  たった一言なのに声が裏返る。柄にもなく、あたしは緊張しているらしかった。  ん゙んっ、と喉の奥で小さく咳払い。声を整えてから顔を上げると――Lサイズのキャリーケースを二つ転がしながら店に入ってきた美女と目が合った。  はっきりとした目鼻立ち。  首筋までで揃えられたショートヘアーがとても似合っている人だ。 「いらっしゃい、巴。久しぶりだね」 「久しぶりーっ、元気しとった?」  と、摩子さんが現れるなり、美女――小坪巴(こつぼともえ)さんの表情がパアっと明るくなる。  。  摩子さん言葉から、てっきり体育会系の女性だと思っていたのだけれど、小坪さんは想像していたより線の細い女性だった。  白のブラウスに藍色のジーンズというシンプルな格好が、ことさらに線の細さを目立たせている。 「今年もお邪魔させてもらいます」  印象的な笑顔を浮かべながら小坪さんは形の整ったお辞儀をする。  関西訛りの言葉遣いと、奥ゆかしい上品さを感じさせる仕草――明らかに地元人じゃない。京都あたりの人だろうか?  しかしまあ。  は言い過ぎだと思うけれど――確かに明るい印象を受ける人だ。  摩子さんを静的な美人と表すなら、小坪さんは動的な美人。  もしくは陰と陽。あるいは月と太陽。  そんな感じだ。 「うん。部屋の用意はできてるから、さっさと受付済ませて荷ほどきしておいでよ。どうせ今年もスケジュールが詰まってるんでしょ?」 「んー。詰まってる言うより、真っ白やね。まだネタすら浮かんでないわ」 「……相変わらずだね」 「ま、なんとかなるやろ」  イマイチ内容が掴めない会話を聞きながら――はっ、と思い出す。小坪さんの受付はあたしに任されているんだった。  二人の会話が一段落する前に、あたしは受付に回り込んだ。
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