ねこ、なまえがほしい

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ねこ、なまえがほしい

 理学部の講義棟で、一番広い講義室201が、12:00のチャイムが鳴るとともに急に息を吹き返す。  わっ  まさに、わっ、と、寝ていた者もノートをとっていた者も、とりあえず何を差し置いても、立ち上がるのだ。100人は収容できる講義室の全員が立つものだから、澱んでいた空気さえ蘇る気さえする。 「教授、学生が質問したいみたいですよ……またポォっとして。休み時間の学生が活発的になることに感心してどうするんですか。ただでさえこの講義は楽単『として』人気なのに」  講義を補佐してくれるTA(ティーチングアシスタント)の立花君は、実に優秀な我が研究室のホープだ。いま、黒板を消してもらっているーーもう終わってた。 「そもそも、休み時間に急に立ち上がって走り出すその元気と無駄な瞬発力を、講義中にこそ見せなさいよあのクソガキどもめ」 「まあいいではありませんか。子供が元気なのはいいことです」 「子供って……あいつら最低でも18歳ですよ? 自分のことくらい自分で面倒を見れないやつは郷(さと)に帰れ」  耳に刺さる罵声を聞く。途中から私が話を聞いていないことを知っていたのだろう。正解だ。私は学生が質問に来てくれたことが嬉しくて、講義台の上からノートを覗き込んであれこれと口を出していた。 「全く。午後から教授会もあるんですから、昼ごはんちゃんと食べておくんですよ!」  恐らく立花君は振り返りもせず、講義室を出て行こうとしている。足元になにかが触ったから、もしかしたら私の荷物も運んでくれるのかもしれなーー 「うむ。教授もこき使うその意気や、よし」  今回の講義で使った、プロジェクターとパソコン。重い鉄球と木の球。嵩張り重いものだけを、まとめて残してくれたらしい。 「学生は、そうでなくっちゃ、いけない」  教授は少し寂しげに笑ったが、学生には気づかれることなく、また熱心にその人を教え始めた。  教授は、かつてとある病院で苦しみ、大学生活を心から楽しめなかった過去があった。  学生が、元気に出席してくれる。それだけで、教授は嬉しい。
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