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充分、手応えを感じたものの自分のしたことが恥ずかしくて堪らなかった優紀は、時間を取らせてすいませんでしたと謝り、ありがとうございましたと礼を言って中西と別れた後も恥ずかしくて照れ臭くてどうしようもなくなって気持ちを紛らわそうと無闇に駆けたりはしゃいだりして家へ向かった。その途中、偶然にも前方に水田が歩いているのに気づくと、お誂え向きだわ!格好の捌け口だわ!と思った優紀は、勢いよく駆けて行って水田の背後まで来るや、「くっせー!」と叫んだ。
びっくりした水田が立ち止まって振り向くと、「相変わらずチビねえ!おまけにだっせえ!」と優紀は更に貶した。
余りのことに水田が唖然とし、放心していると、「いつもうぜえんだよ!きもいんだよ!」と優紀は不良少女宛らに言い放ったかと思うと、けたたましく笑いながら駆け出して水田から嬉々として離れて行った。
言わずもがな優紀は恥ずかしさを紛らわす為に水田に罵詈雑言を浴びせ楽しんだのであって口汚く罵ったのは中西の前でいい子ぶり過ぎた反動の表れであった。彼女は普段の自分からは想像もつかないような暴言を水田に吐いても誰も話し相手がいない水田にはそのことを誰にも伝えられないし、何もやり返せないと水田を甞め切っていたから酷いことが言えたのだ。
好きな子にそう言われたのだから水田は相当傷ついたかと思いきや、そうでもなかった。寧ろ嬉しい気持ちさえあった。初めて話しかけられたし気にされていると思ったからだ。こんな僕でも気にしてたんだと。自虐的だから虫けらでも見るかのような冷たい目に痺れたし、もっと冷たく悪口を言って自分といて欲しいと望む自分が確かにいた。それくらい自虐的な根性が体中に根付き、それが苔として全身から芽吹くんじゃないかと思われる程、心がジメジメしていた。そんな風だから、いいバレンタインデーになったと自分で自分を皮肉っぽく思った。
人それぞれ考え方が違うし、ものは考えようと言うが、これは果たしてプラス思考と言えるのだろうか?差し詰め自虐的ならではのプラス思考といったところか。
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