姿のない君と

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 休日。俺は実際に彼女から送られてきた位置情報を頼りに、その場所へ向かってみた。  途中までは車で向かっていたのだが、どんどん道が複雑に入り組んできて、ついには舗装されていない場所にまで来てしまった。  俺は仕方なく車を降りると、位置情報が示す場所を再び目指してみるけれど、道はどんどん険しくなっていって、生い茂った草が視界を塞ぐようになっていく。一体この先に何があるというのか。俺は彼女に騙されたのではないか。そんなことまで考えるようになっていた。  途端、山を登りきり、草を掻き分けると、目の前に銀色の金属で覆われた、大きな建物が現れた。ただそれだけだった。まるで、東京の町から隔離されたかのように、周りには本当に木々以外、何も存在しなかった。  スマホを確認すると、ここが彼女の送ってきた位置情報の場所だった。何故このような場所に。理解出来ないでいると、彼女が通話室を立ち上げたという通知が入った。急いで自分も通話室に入る。 『よかった。無事に辿り告げたのね』  その台詞は、明らかに自分の様子をずっと見ていなければ出てくるはずの無い言葉だった。俺は一体どういうことか尋ねた。すると、彼女は申し訳なさそうに答えた。 『あなたのスマホから、あなたのことを見ていたの。あなたに本当のことを伝えるために』  スマホから俺を見ていた? 俺が疑問を浮かべるよりも早く、彼女は答えた。 『私は自分の肉体を捨てて、電脳化したの。だから、電子機器を自由に移動することが出来るのよ』  彼女は俺に、建物の前のスイッチに、スマホを見せるよう指示した。俺は言われた通りスマホをかざすと、彼女がそのスイッチに移動したのだろうか。「C-13」という番号がスイッチ上に表示されると同時に、建物の扉が開いた。強い冷気が中から流れ込んできて、冬の風を浴びた心地になった。  俺は恐る恐る中へと足を踏み入れる。そうしてしばらく進んで、間もなく俺は、信じ難い光景を目の当たりにした。たくさんの人間が、カプセルに入れられ眠っていたのだ。 『確かに私は電脳化して、肉体を捨てた。けれど、諦めたわけでは無いわ。いつか医療技術が発達して、私の病気が治せるようになったら、再び自身の肉体に戻るつもり』  俺は「C-13」と書かれたカプセルを見つけた。そこには、一人の女性が眠っている。その瞳は固く閉じられていて、体の表面には、たくさんの霜が降っていて、凍っているのだと理解するのに、そう時間はかからなかった。  コールドスリープ。俺はそんなもの、とんだ先の未来の話だと思っていた。けれどもう既に、こんな東京の山奥で、隠れるように行われていたなんて。
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