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第2章:五色の風雲 1、ローゼとペスカ
砂風の舞う中、エイルとオレジは、蛸巣公国のほぼ中央、ブリートーの街に着いた。
カプサが教えてくれた「モモ」という店はどこだろうか。西の端にあると言っていたが、すぐに見つかるだろうか。二人の心配は、しかし砂風とともに消えた。桃色の目立つ看板が立っていたのだ。ただし、肝心の建物は古くて小さく、どうみても大繁盛という雰囲気ではなかった。
「…ここか? 予想とはちょっと違ったが、ま、ええやろ。エイル、入ろうで」
オレジはそう言うと、店のドアを開けた。
店の中は、殺風景な酒場というつくり。テーブルが二つ、他にカウンター席があり、黒い服を着た武骨な男がいる。この店のマスターなのだろう。彼がたった一人、ずらりと棚に並んだ酒瓶の前で、丹念にコップをふいている。先客は、誰もいない。
「…ご注文は?」
にこりともせず、男が問いかけてきた。
「あの、このカードを使いたいんですが…」
エイルが桃色のカードを取り出して、男に見せた。オレジも差し出す。すると、男は目を見開いて、二人をまじまじと見つめた。口調が改まる。
「カードをお預かりいたします。少々お待ちください」
奥に引っ込む。オレジとエイルは顔を見合わせた。大丈夫かな、ここ。
待つほどもなく、男は戻ってきて、二人をカウンターの中へと入るように言った。二人がとまどっていると、男は言葉を重ねた。
「カプサ様のご紹介とは知らず、大変に失礼いたしました。この店は、初めてでいらっしゃいますね。こちらから地下に降りられます。どうぞお入りください」
…地下? カウンターの中を見てみると、男が立っていたあたりに、持ち上げる形の板戸があった。男がその板戸を持ち上げた。床の下に、細い階段が現れた。
ここまで来たら、行くしかないだろう。
「…どうぞごゆっくり」
男の声とともに、頭上で戸が閉まった。ぼうっと闇に浮かび上がる薄い明かりが、階段の両脇でゆらめいている。
「ふうむ、なかなか凝ったつくりやないの」
「オレジさんは、こういう地下階段を通ったことがあるんですか?」
「いっぱいあるで。セット・グーでも、悪徳商人や脱税者どもの店や自宅なんかには、隠し地下室や隠し屋根裏部屋が多いんや。やつらは表に出せない宝物などをためこんでいることが多いけど、さあて、ここにはどんなお宝があるんやろか」
エイルは、オレジの苦労人の部分を知っている。
表面上は軽口好きの冴えない男なのだが、財政の面からカプサ市長をしっかりと支えている、根っからの仕事人だ。悪徳商人や脱税者の摘発、えんえんと続く裏帳簿の調査にも、積極的に取り組んでいる。地味な仕事、嫌な仕事も、明るく積み重ねていく男。お金にまつわる修羅場の経験も豊富なのである。
階段の下には、重そうな木の扉があった。それを開くと。
豪華な桃色のじゅうたんが敷き詰められた廊下が現れた。明るい。桃のような爽やかで甘い香りが、かすかにただよった。廊下の両側に、いくつかのドアがあるのが見えた。
廊下には、二人の女性が立っており、エイルとオレジを出迎えてくれた。
「ようこそ、ブリートーの『モモ』へ。私の名前は、ピンクペッパー・ローゼ」
「私は、ピンクペッパー・ペスカと申します。ローゼの妹です。長旅、お疲れさまでした」
二人はうやうやしくおじぎをする。エイルとオレジは、姉妹の美しさに見とれていたが、あわてておじぎを返した。顔立ちが、似ている。髪の長い姉がローゼ、短い妹がペスカ。二人とも、桃色のすっきりとした装束に身を包み、どことなく気品があった。
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