7、気合を入れる

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7、気合を入れる

 エイルとオレジは、市長室から退室した。ツブラは、少し話があるということで市長室に残った。二人は、すぐに蛸巣公国行きの準備をすることにした、のだが。 「どうもカプサ様たちにうまく言いくるめられた気がするんやが、要するにわいたちに丸投げ、ということなんやろか…」  オレジが、エイルに向かってこぼす。エイルが優しく言う。 「僕たちを信頼している証ではないでしょうか。それに、現地に入らないと、わからないことが多すぎるのでしょう。もちろん、お互いの情報の共有は大事でしょうけど…」 「それや。エイル、どないする? お前はトルティヤ、わいはラートナー。けっこう距離が離れとるんやろ? いつもツブラを頼りにするわけにもいかん。わいたちは、情報の共有を、どこでするべきなんやろか」  その時、背後でドアが開く音がして、どたどたと走ってくる足音がした。カプサ市長である。 「お前たちに、いいものをやろう」  そう言うと市長は、桃色のカードを二枚、彼らに差し出した。 「トルティヤとラートナーのちょうど中間地点にな、ブリートーという街がある。その街の西の端っこに『モモ』という店があるんだ。そこの店の者たちは、俺の知り合いだ。俺の名前と、このカードを出せば、お前たちをもてなしてくれるだろうよ。お互いの情報の共有、密会に使うといい」 「…えらいかわいいカードでんな」 「仕事にも息抜きが必要だろ?」  そう言うとカプサは、その強面に全く似合わないウインクをした。憎めない市長だ。 「セサミの前では渡しづらくてなあ。ツブラにも渡しておく。じゃ、頼んだぜ」  市長が風のように去ると、オレジとエイルは、顔を見合わせた。 「…では、ブリートーという街の、このモモという店で会うことにしましょうか」 「ツブラはどうする?」 「僕たちと違って、隠れて行う仕事ですから…。あまり縛りをかけない方がいいでしょう。彼なら、必要な時に、いいタイミングで自分からやってくるはずです。自由に動ける身でもありますしね」 「そやな」  オレジは、ひとつ伸びをして、言った。 「市長もなかなか粋なことをしてくれるやないか。よし、いっちょやったろかい!」  オレジは、どうやら急にやる気になったようだ。気合を入れる彼の横で、エイルは考え込む表情を作った。 「ん、エイル、どないしたんや? そないにこの『モモ』という店が楽しみなんか?」 「…オレジさん、さっき僕たちが市長室に入った時、すでにヘンプ先生とツブラが来ていましたよね」 「そう言えば、そやな」 「先生が集合時間より前に来るのは珍しいことです。ましてやあのお体。後からゆっくり来ても良いはずなのに…。二人はいったい、何を話していたんでしょう?」  オレジがその疑問に答えようとした時、廊下の向こうから大きな声が響いた。 「よお、オレジにエイルじゃないか! 久しぶりだな!」 「カケルさん!」  二人の昔なじみである。アオノリ・カケルという男だ。『航海師範』である船乗りで、一年のほとんどを海の上で過ごしている。日焼けした顔が、いかにも健康そうである。しかし、どうしてこのセット・グーに…? 「珍しいでんな、カケルはんを陸上で見かけるのは」 「おいおい、俺も魚じゃないぜ。たまには陸に上がる。この街、セット・グーが恋しくなるんだよ…。ま、今日は市長たちに呼ばれてきたんだがな」 「市長たちに?」 「おっと、皆さんを待たせるわけにはいかねえな。あばよ!」  カケルが市長室に走っていく姿を見ながら、エイルは再び考え込んだ。 「もしかしたら市長たちは、局面をがらりと動かす気なのかもしれない…」  ヘンプをわざわざ呼び寄せて、エイルとオレジに仕事を指示しながら、暗殺師範かつ警備師範のツブラと、航海師範のカケルに密命を与える。ましてや、あのガーリック・ミジンの手下も来ているという。何かが起こる。それにしても、とエイルは思う。 「ヘンプ先生は、どうやってミジンの動きをつかんでいるのだろう?」  …まだまだ自分は先生の足元にも及ばないようだ。この仕事を全力でやりきることで、さらに自分の技に磨きをかけたい。そう思った。彼は、オレジに言った。 「オレジさん、いっちょやったりましょう!」 「エイル、その意気やで!」  蛸巣公国での仕事に向けて、二人は気合を入れ直したのだった。
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