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8、暗闘の始まり
オレジとエイルが気合を入れている頃。
ミックススパイス島の、とある所に、ガーリック・ミジンはいた。
彼の前には、二人の手下がひざまずいて、顔を下に向けている。一人は、大男だ。つやつやと輝く筋肉を持ち、手足の太さは丸太ほどもある。頭髪はなく、はげあがっている。もう一人は、顔色の悪い、やせぎすの女性。クリーム色の長い髪をしている。首には赤いリングを連ねたネックレスが揺れている。
「…セット・グーのカプサ、あの食わせ者の一味が、蛸巣公国に入り込むそうじゃ」
そのミジンの言葉に、二人が顔を上げた。
「一人はジンジャー・エイル。人事屋と自称する青二才じゃ。一人はチンピ・オレジ。金集めに汚い猿のような男と聞く。ふん、どっちもさっさと殺しておけば良かったかの」
ミジンは顔をゆがめた。
「さて、そちらの首尾はどうじゃ? …まずは、ジョーから聞こう」
ジョーと呼ばれた大男は、再び顔を下げ、声を張り上げた。
「ミジン様のご命令通り、トルティヤにいるブランの軍務省に入り込み、計画を進めております。もともと力が有り余っている者たちです。その刀の切っ先をセット・グーへと向けて、攻め込んでいくのも時間の問題でございましょう!」
「ふうむ、ではチーノはどうじゃ」
チーノと呼ばれた女性が、うやうやしく頭を下げながら、ぼそぼそと答える。
「ミジン様のご命令通り、ラートナーにいるホワトの政務省において、新しく貿易を始めるように働きかけております。間坊帝国と蛸巣公国、東の端と西の端との貿易に、興味を向ける者も多くおりますれば、こちらも時間の問題かと…」
大男の名はアヒー・ジョー。やせぎすの女性の名はペペロン・チーノ。
いずれも、ガーリック・ミジンの腹心であった。彼からの信頼も、厚い。…だが、ミジンは二人の言葉を聞いて、さらに顔をゆがめたのである。
「ほう、ほう、本当に時間の問題なのかの?」
再び、はっと二人は顔を上げた。声に怒気がこもっているのを感じる。この気の短い男が怒り出すと、誰にも止められない。そのことを、長く手下として彼の下で働いている二人は、よく知っていた。
「…タマネがのう、おぬしたちの工作が難航していることを報告してきておるんじゃよ。本当は、あまりうまくいっていないのではないか? え?」
…あの訳知り顔の女か! 新参者のくせに、つまらん報告をしやがって! ジョーは心の中で毒づいた。
オニオン・タマネという、最近ミジンの一党に加わった女性がいる。どこから手に入れるのか、ミックススパイス島の各地の情報を集めてくるので、今ではすっかりミジンのお気に入りとなっているのだ。古くからの手下であるジョーには、それが気に食わない。
彼の横でチーノが、ミジンの言葉に逆らわず、正直に言った。
「蛸巣公国の者どもはまとまりがなく…。一人に話が通じても、他の者が足を引っ張る。まさに蛸壺のごとく、視野の狭い田舎者ばかりで、正直、手こずっております。誠に申し訳ございません」
「ジョーもそうか」
「…その通りでございます、申し訳ございません!」
「ならば最初からそう言え!」
二人は、心の中の不満を押し殺し、さらに深く頭を下げた。最初からうまくいってないと報告すると怒り出すので、順調に進んでいる、と言ったのが裏目に出たようだ。
「青二才と猿が来るからには、あまり余裕はないぞ。急げ。これをおぬしたちに渡す」
そう言うと、ミジンは二人にそれぞれ袋を渡した。中を開けると、そこには数えきれないほどの金貨が入っている。おそらく、依頼主からせしめたのであろう。
「うまくばらまくがよい。金に糸目をつけるな。じゃが、正体はばれぬように気をつけろ。わしはおぬしたちを信頼しておるのじゃ。良いな、吉報を待っておるぞ」
…こうして、蛸巣公国を舞台にして、セット・グーの面々と、ガーリック・ミジンの手下たち、二つの勢力が暗闘を始めるのであった。
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